大判例

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福岡高等裁判所 昭和42年(う)333号 判決

本店所在地

東京都中央区銀座東四丁目一番地

被告人

振興鉱業開発株式会社

右代表者清算人

菅谷恒造

本籍

東京都板橋区大谷口町二の六四番地

住居

東京都中野区上鷺宮一の二の一七

会社役員

田中隆博

大正一一年三月七日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、昭和四二年三月二四日福岡地方裁判所が言渡した判決に対し、被告人ら及び被告人らの原審弁護人名川保男、同徳永竹夫からそれぞれ控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡地方裁判所に差し戻す。

理由

弁護人徳永竹夫が陳述した控訴趣意は、記録に編綴の同弁護人並びに弁護人名川保夫及び被告人田中隆博提出の各控訴趣意書に記載のとおりであり、これに対する答弁は、記録に編綴の検察官片山恒作成の答弁書に記載のとおり(但し同答弁書五枚目表二行目の「逆に」とあるのを削除し、七枚目表四行目の「丸吉炭坑」とあるのを「山吉炭坑」と訂正する。)であるから、いずれもこれを引用する。

名川弁護人の控訴趣意第一点1(法令の適用の誤)及び第二点1.2.(事実誤認乃至理由そご)、徳永弁護人の控訴趣意第一点(事実誤認)及び第二点第二(一)、(二)、第三(六)(理由そご、理由不備乃至事実誤認)並びに被告人田中隆博の控訴趣意(二)乃至(四)及び(一六)〈1〉乃至〈3〉(法令の適用の誤、理由そご、事実誤認)について。

論旨のうち先ず原判決が被告人振興鉱業開発株式会社(以下単に被告会社という)が昭和二六年度の事業所得について、昭和二七年五月二九日になした確定申告に際し、不正の手段によりその所得を過少申告したとして、逋脱税額を確定するに当り、同会社は後述のとおり振興鉱業所及び丸吉鉱業所の二事業所を有し、夫々課税坑と免税坑があって、その課税所得は課税坑と免税坑とを区分計算してこれを算出すべきであるのに、両鉱業所毎にその全損金及び益金額を計算して所得額を確定した上で、各坑の出炭屯数の割合で按分計算して課税坑の所得額を算出し、これに基づいて逋脱税額を確定したのは失当であると主張する点について検討することとする。

そもそも法人税逋脱の罪となるべき事実を構成する所得金額を確定するにあたっては、その前提として当該事業年度の総益金及び総損金の内容をなす個々の益金又は損金、すなわち純資産の増加又は減少の原因となるべき各個の具体的事実を証拠により認定する必要がある。しかるに、原判決は所論のように、被告会社の事業は、振興、丸吉両鉱業所によって営まれており、振興鉱業所のうちの租鉱区第一三四号並びに丸吉鉱業所のうちの第一坑と第三坑はいずれも課税坑であったが、振興鉱業所のうちの福採登第一六九八号鉱区並びに丸吉鉱業所のうちの第二坑はいずれも免税坑の実体を具備していたものとして、右各坑からの出炭による所得は本件起訴の課税所得の中から除外されていることが明らかであると認定しながら、右課税坑と免税坑(振興鉱業所のうちの福採登第一六九八号鉱区並びに丸吉鉱業所第二坑はいずれも後に免税坑と認定された)の昭和二六年四月一日から昭和二七年三月三一日至る事業年度における損益の各項目を算定する基準が証拠上明確でないとして、国税局並びに起訴の方針に準拠して、本来各坑について出炭屯数が明らかである限り、これに実際の歩留率を乗じ各坑の出炭屯数を算出すべきであるに拘らず、各坑の歩留率の差異を看過して両鉱業所毎に課税、免税の両坑を一括した当期の販売屯数に期首、期末の貯炭数を加減し、総出炭屯数を求め、これを検炭野取の段階における屯数で按分推計して各坑の出炭屯数を算出し、右の出炭屯数を損益の各項目を通ずる一貫した基準として採用し、その比率により課税坑からの所得と免税坑からの所得を按分算出し、換言すると課税坑からの所得と免税坑からの所得の合算から免税坑からの所得を控除することによって課税坑からの所得を算出したことが判文上明らかである。

ところで本件当時施行されていた法人税法(昭和四〇年法律第三四号及び同三七年法律第四五号による改正前の)第三一条の四第二項に所得金額の計算について「財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数、その他事業規模により各事業年度の所得金額を推計してこれをなすことができる」旨の規定がある。原審が同条に則ったものであるか否かは明らかではないが、申告納税制度が第一次的に納税義務者の自主的な適正申告を前提とするものであるところからすると、申告内容に不真実の疑があり、帳簿記載が真実、正確になされておらず、各種の資料を備えていない場合において、逋脱犯についての課税標準又は税額の算定に絶対に何らの推計も許されないと解するのは妥当でなく、その推定に合理性が保証される限り或る程度の推計は避け難く、これを己むを得ないものと認めざるを得ないのである。ただその推計には自ら限度があり、各種の資料に基いて合理性を失わない範囲に止らねばならないことは多言を要しないところである。

しかして前示改正前の法人税法第六条においては、所謂新設免税坑はその業務から生じた各事業年度の所得に対する法人税を免除されており、また国税庁長官の法人税取扱通達(昭和二五年九月二五日直法一―一〇〇。所謂基本通達)第二九項によれば、免税事業について損失を生じた場合は課税事業の所得から控除することになっており、且つ免税所得についての所得計算方法については法に別段の規定なく、前記通達第二五項に免税事業の増設部分から生ずる所得と課税事業から生ずる所得の標準生産能力の比によって按分する旨、同第二六項に免税事業と課税事業とに共通関連する附随業務より生ずる所得について実情に応ずるよう見積り区分する旨を定めているに過ぎない。これらの点に徴すると、課税坑と免税坑を兼営する炭礦においては、本来課税坑と免税坑とは別個独立の経理により各坑別の損益を算出し、もし免税坑について損失を生じた場合においては免税坑の右損失の額を控除した後の課税坑の所得について逋脱の犯意ある所得を認定すべきことが規定されているものと解される。

それで本件のごとく両者兼営の炭坑において、免税申告を可能とするような経理がなされておらず、課税坑と免税坑との損益が区分して計算されていない場合において、課税所得の逋脱額を算出しようとするときの合理的な区分計算の基準を探究すれば、(一)両者の何れに属するか明瞭なる損金、益金はそれぞれ専属区分による、(二)両者に共通するものは、その性質内容により見積り区分すべく、これが可能でないものについては大体において正確な出炭屯数の比率により按分することも己むを得ない。(三)両者に共通ではないが合算されているものについては、各独立経営という考え方を基本とし、その性質内容により見積り区分するよりほかなく、この種のものは例えば(イ)販売屯数により按分を可とするもの、(ロ)出炭屯数(但し本年度の夫、又は過年度の夫)による按分を可とするもの、(ハ)出炭函数、従業員数、使用電力料、採炭能率、支払資金等の割合によるもの、等があることが推測され、各預金益金について、その一部のものが両者何れに属するかその区分が明瞭でないものは、前示基準によってその部分について按分計算することは許されるとしても、その故を以て全部について或る基準例えば出炭屯数による按分は妥当とはいえない。それ故課税坑と免税坑とでは諸種の条件に著しい差異がある場合に、単に計算の簡易化ということから、両者の出炭量一色で按分計算することには合理性はないのであって、両者の殆どすべての条件が実質的に差異のない場合においてのみ初めてこれが認容され得るにとどまるのである。

これを本件についてみると、本件記録及び原裁判所で取調べた証拠に徴すると、被告会社における右課税坑と免税坑との間には、炭層状況(炭質、炭丈、山丈、ぼたの挾み等)、可採炭量、歩留率、カロリー、採掘条件、採炭能率、従業員数、設備機械の配置状況等に差異が存し、原価要素の様相を異にすることは記録上容易に窺い得るところであるから、これらの差異を全く考慮に入れずして、課税坑からの所得と免税坑からの所得を単に前示のように正鵠を失した各坑の出炭屯数のみの比率により按分算出するときは、当然客観的事実と相違する結果を来し、特に前記諸条件において一般的に課税坑よりも免税坑が優れていたことが記録上明らかであるから、免税坑からの所得を少く算出し、その分だけ課税坑からの所得を過大に算出する結果となることはまことにみやすき道理といわなければならない。のみならず、当時丸吉鉱業所第二坑からは良質の石炭が採取されたので、被告会社においては、主として右第二坑から産出した良質(カロリーの高い)の石炭にぼた等を混入して売炭していたことが記録上容易に窺い得るところ、原判決は丸吉鉱業所の当期総産出屯数は三三、一一五屯であり、その検炭野取の段階における産出量は第一坑が二〇、九〇七屯、第二坑が七、六七〇屯、第三坑が一四一屯であるから、右当期総産出屯数三三、一一五屯を右検炭野取の段階における産出量の比率で按分すれば、丸吉鉱業所の各坑別の出炭屯数は第一坑が二四、一〇八屯、第二坑が八、八四四屯、第三坑が一六三屯となる旨認定し、これをもって各坑からの損益を計算する基礎としているのであって、かかる原判決の認定は、出炭屯数の算定に過誤を来すことが明白である。そして、原判決は、丸吉鉱業所の右総産出屯数三三、一一五屯と検炭野取段階における出炭量の総計二八、七一八屯との差額四、三九七屯の混入されたぼた等を良質の石炭と同様に課税対象としたものであって、そのこと自体著しく合理性を欠くものというべく、しかも主に第二坑からの産出炭に混入して売炭された右ぼた等を検炭野取の段階における産出量の比率で各坑に按分したことになるから、免税坑たる第二坑からの所得を実際よりも少く算出し、課税坑たる第一坑と第三坑からの所得をその分だけ過大に算出する結果となることが明らかである。

そして、被告会社において、昭和二六年四月一日から昭和二七年三月三一日に至る事業年度の法人税確定申告書を所轄飯塚税務署長に提出するに当って、振興鉱業所のうち福採登第一六九八号鉱区並びに丸吉鉱業所第二坑についてなんら免税の申請手続をなすことなく、また損益計算書や貸借対照表はもとより、会社のその他の経理関係の帳簿上においても課税坑と免税坑の区分をせず、振興、丸吉両鉱業所毎に課税坑分も免税坑分も一体として記帳されていたため、実際上課税坑と免税坑毎の損益計算を厳格に行い、前に説示したような合理性を持つ基準による区分計算をすることがその事業形態からして容易ではなかったことは十分これを窺い得るところではあるが、原判決のなした前示按分計算によれば、被告会社にとって不利益でないことの保証を理由づける資料は記録上見当らず、当審の事実取調の結果によってもこれを首肯し難いばかりでなく、かえって被告会社の課税坑と免税坑の損益の計算において、実際の事実と相違して課税坑からの所得を過大に算出する結果となることが十分に推認できるのであるから、所論指摘のようにかかる計算方法によって被告会社の法人税逋脱の罪となるべき事実を構成する所得金額を確定することは、刑事裁判の本質に照してもとうてい許されないところといわざるを得ない。

従って、原審においては、被告会社の課税坑と免税坑につきその事実の実態についての差異の有無を考慮して、各坑毎の炭層状況、可採炭量、出炭函数、歩留率、カロリー、採掘条件、従業員数、設備機械の配置状況等を諸帳簿、諸資料、各関係者の取調べ等により審理を尽し、両坑の損益の各項目について可能な限りの調査をなしかつ各坑の出炭屯数の算出についても更に精査を尽したうえ、各鉱業所毎に夫々課税坑、免税坑各別に実状に即して販売収入、石炭原価、一般管理費、雑損益等を正当に区分計算して両者の所得の計算の正確を期するため、個々の損益につき、それが課税事業に属するか免税事業に属するか明瞭なものはその専属区分により、課税事業と免税事業に共通するか又は合算されているものについては、具体的にその性質、内容に従い各坑毎の前記諸条件や出炭屯数等に基礎をおいて可及的に客観的事実に近い比率で課税事業に属する分と免税事業に属する分の損益を見積り(推定)区分して課税事業に属する所得を算出する必要があるので、叙上説示したところに則って訴因の是正をなさしめて、適正な逋脱所得を確定する方途に出るべきであり、原審が採用したように各坑毎の出炭屯数(なお各坑毎の出炭屯数の算出についても過誤があること前記のとおりである)のみをもって損益の各項目すべてを通ずる一貫した基準として採用し、この比率により課税事業からの所得と免税事業からの所得とを区分計算することによっては、被告会社の課税事業からの所得のうち逋脱の犯意のある所得金額を確定することはできず、正しい法人税逋脱金額を認定することもできない。

してみれば、本件においては、課税坑と免税坑の各坑毎出炭屯数に過誤があるのみならず、原判決が右各坑毎出炭屯数をもとにして課税事業からの所得と免税事業からの所得を按分計算して、被告会社の課税事業からの所得金額を確定したことは、ひっきよう前示法人税法の各規定並びに同法第四八条第一項の解釈適用を語り、且つ審理不尽による事実認定の過誤を犯し、ひいて判決に理由不備の違法があることに帰着し、しかも右法令の解釈適用の過誤並びに事実の誤認はいずれも判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、右論旨のうち爾余の点の判断をするまでもなく、この点で原判決は破棄を免れず、この限度において論旨は理由があり、検察官の答弁は採用し難い。

そこで刑事訴訟法第三九七条第一項、第三七八条第四号、第三八〇条、第三八二条により、他の控訴趣意に対する判断を省略し、原判決を破棄し、事案に鑑み自判に適しないので、同法第四〇〇条本文に従って本件を原裁判所に差し戻すこととする。

よって主文のとおり判決する。

検察官 片山恒 出席

昭和四三年九月七日

(裁判長 裁判官 岡林次郎 裁判官 山本茂 裁判官 生田謙二)

○昭和三〇年(わ)第四七四号

控訴趣意書

被告会社 振興鉱業開発株式会社

右代表者代表取締役 菅谷恒進

被告人 田中隆博

被告人両名に対する法人税法違反被告件の控訴の趣意は左記のとおりである。

昭和四二年六月三日

右被告人ら弁護人 名川保男

福岡高等裁判所 御中

目次

第一点 法令適用の誤り・・・・・・一五〇八

1. 法人税法第六条同法第四八条第一項、同法第三一条の四第二項・・・・・・一五〇八

(1) 原審判決の逋脱税額認定の経過・・・・・・一五〇九

(2) 免税所得と逋脱税額認定の経過・・・・・・一五一〇

(3) 原審判決が免税所得を推計したのは違法である・・・・・・一五一〇

2. 刑事訴訟法第二五〇条第五項会計法第三〇条・・・・・・一五一四

3. 法人税法第四八条第一項同条第三項国税徴収法第三二条・・・・・・一五一五

第二点 事実誤認・・・・・・一五一六

1. 出炭屯数割合による課税免税所得按分の事実誤認・・・・・・一五一六

(1) 販売収入の事実誤認・・・・・・一五一七

(2) 石炭原価の事実誤認・・・・・・一五一七

(3) 事実誤認をなすに至った事由と責任・・・・・・一五一八

2. 課税坑免税坑の所得区分をあん分するため用いた屯数は極めて不合理な推計屯数である・・・・・・一五一九

(1) 要旨・・・・・・一五一九

(2) 振興鉱業所屯数・・・・・・一五一九

1520丸吉鉱業所屯数・・・・・・一五二〇

(3) 丸吉鉱業所の著しい事実誤認・・・・・・一五二〇

(4) その原因と結果・・・・・・一五二一

(5) むすび・・・・・・一五二二

3. 法人税納付に関する事実誤認・・・・・・一五二二

4. 各勘定に対する事実誤認・・・・・・一五二三

5. 丸吉鉱業所仮払金中不良資産に対する事実誤認・・・・・・一五二七

6. 原審判決理由中の計算誤謬・・・・・・一五二八

むすび

第一点 法令適用の誤り

原審判決には次のとおり極めて重大なる税法適用の誤りがあり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明かであるから破棄せられるべきである。

1. 法人税法第六条、同法第四八条第一項、同法第三一条の四第二項

振興丸吉両鉱業所の課税坑、免税坑の所得を出炭屯数により按分推計したことは法人税法第六条の規定に違反し、免税所得の計算にも推計課税規定(同法第三一条の四第二項)を類推適用し得るごとく誤解した。

このような推計された計算経路によって算出された逋脱税額は法と証拠に基づかない、単なる推測に過ぎない。

(1) 原審判決の逋脱税額認定の経過

原審判決理由に示す逋脱税額認定の方法は、先ず利益を

振興鉱業所利益 一〇七、七〇一、九二二円四二銭

(原審判決六三頁)

丸吉鉱業所利益 一六、五五八、〇一一円三五銭

(原審判決七九頁)

合計 一二四、二五九、九三三円七七銭

と認定の上、振興鉱業所中福採登第六九八号鉱区及び丸吉鉱業所中第二坑の免税坑にかかる部分の利益を出炭屯数の比率により区分して算出し(原審判決九頁)

振興鉱業所福採登第一六九八号鉱区 九三、九四六、七一四円三〇銭

(原審判決五四頁)

丸吉鉱業所第2項 四、四二二、一三六円五六銭

(原審判決五四頁)

合計 九八、三六八、八五〇円八五銭

を免税所得と認定し

差引 二五、八九一、〇八二円九一銭

(原審判決五五頁)

を本件課税所得金額と判示している。

(2) 免税所得と逋脱犯との関連性

被告人会社の免税所得控除前所得は原審判決別表第三(六三頁)並びに別表第七(七九頁)の各公表らんよ集計すれば

振興鉱業所 一〇九、六二〇、四三一円〇八銭

丸吉鉱業所 二四、六四八、四〇三円七七銭

合計 一三四、二六八、八三四円八五銭

であって、原審判決の免税所得控除前所得(前掲)

一二四、二五九、九三三円七七銭

よりも 一〇、〇〇八、九〇一円〇八銭

多く計算しているのであるから、免税所得控除前所得の段階で逋脱の故意を認定することはできない。

即ち本件に逋脱があったかどうかは(免税所得控除前の利益を計算する段階までに逋脱の原因があったのではなく)免税所得がいくらであるかによって定り、又逋脱税額も免税所得がいくらであるかによって変動するのである。

(3) 原判決が免税所得を推計したのは違法である。

イ、原審判決は免税所得として前記のように

九八、三六八、八五〇円八六銭

を認定しているが、この認定が税に関する刑事裁判の本質にてらし適法なものであるかどうかについてのべる。

弁護人等は原審弁論第二回の第一三項(八九丁表)に於て、極めて詳細に条理をつくして課税坑免税坑別に所得を確定する必要のあることを論じ、又、昭和四一年一〇月七日第二〇回陳述書並びにこれに関連し昭和四一年一〇月七日第一八回陳述書、昭和三七年七月二八日第二事実具申書、昭和三七年九月二〇日附第一五回陳述書に於て課税坑免税坑を兼営する場合採炭の炭層の状況、カロリー、採炭条件、出炭函数が明白に異るので、各坑別(課税坑・免税坑別)に歩留り、カロリーにより区分計算を行い、

振興鉱業所所得 七、六〇三、六〇九円

丸吉鉱業所所得(欠損) 九、五六八、〇三三円

差引欠損 一、九六四、四二四円

である旨を明かにしている(第二〇回陳述書八枚目表)。

ロ、然るに原審判決は免税所得の計算に関し(七頁五)に於て「………その算出方法として弁護人が援用する国税局通達はもともと事業体が課税免税を区分して記帳する際の基準を示したもの………」として一応通達の主旨を正当に判断しながら(九頁)に於て「出炭屯数を各項目全てを通ずる一貫した基準として採用しこれの比率により区分することが本件の場合最も合理的で妥当な結論を得られるものと考へる。」とし、通達にも認めていない、又当然法律にも政令にも認めない推計課税方式を勝手に作りあげ、総所得金額より推計免税所得と推計課税所得を出炭割合で按分したものである(この出炭の割合が、これまた、著しい不合理な推計であることは「事実誤認」の項で別にのべる。)

原審判決は明かに推計に推計を重ねた逋脱税額を以て判決の基礎としたものである。

ハ、法人税法は推計課税に関し同法第三一条の四第二項に於て「政府は………課税標準又は法人税額の更正又は決定をなす場合においては当該法人の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産高、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模により各事業年度の所得金額を推計してこれをなすことができる。」と規定している。

即ち本件で云えば、課税坑免税坑の所得を出炭屯数で按分して推計することができるように見られる原審判決が免税所得を推計した根拠が上記法条にあるか否かは明かでないが、法人税法上行政処分としての更正又は決定の場合に、推計を制限的に(青色申告法人でない法人に対して)認める唯一の規定である。

しかしながら本条が刑事裁判上、逋脱税額確定のために適用が許されるべきものでないことは論を俟たないのである。

ニ、法人税法は第六条に於て免税所得について、「その業務から生じた各事業年度の所得に対する法人税」を免税すると規定しているが、同法並に政令に、その業務から生じた所得の計算方法については具体的な規定はない。

又通達も課税、免税事業を併せ営む場合につき、二六項で附随業務より生ずる所得につき実情に応ずるよう見積り区分すること、二七項で本店の建物費重役報酬社債利子等は概ね免税事業と課税事業とに共通する経費と認める、との二点につき示しているに過ぎない。

原審判決のように各坑別出炭屯数により全項目を按分するなどの規定がないのは勿論、これを類推して窺へるような規定も断片的にすらない。原審判決のとった方法は行政処分上税法の解釈の基準を参考的に示す通達にすら認めていないのである。

何故免税所得の関係規定につき具体的計算規定を示していないのか。その理由は、免税所得は課税事業部門より分離して損益計算各勘定(本件で云えば販売収入、石炭原価、雑損益)ごとに免税事業関係金額を確定し、免税所得を独立した損益計算により確定するものであるから、そこには何等の別段の規定を必要としないのである。即ち法人税法第六条は免税所得は課税所得と絶対的に分離し課税しない旨を規定するのであるから、そこには、もはや前記法第三一条の四第二項の推計課税規定が作用する余地のないのは勿論、免税所得部分は、当然免税所得自らの損益計算によりその所得を確定すべきものである。

(参考)

法人税法は第五条乃至第五条の四で法人の所得のうち課税しない部分(非課税規定)第九条の二乃至第九条の六に於て法人の利益としない部分(益金不算入規定)を設けている。本件免税所得の規定とともに、課税しない所得として旧法人税法の重要な理論体系の一をなすものである。いずれも本件原審判決のように出炭屯数で按分推計するような規定通達は絶対にない。いずれも非課税、益金不算入部分はそれぞれ、それ自身の所得を確定し、非課税或は益金不算入としているものである。

ホ、原審判決は八-九頁に亘り弁護人の炭層別カロリー別歩留計算による課税坑、免税坑別損益計算の断片的な部分をとらへ非難するのみで、前項までに述べた法人税法第六条の正しい法意に基づく免税所得を確定する努力を怠り「出炭屯数による区分が最も合理的で妥当な結果を得られるものと考えた。」としているものである。

法の無視これに過ぐるものはない。

ヘ、この項のむすび

以上により原審判決が両鉱業所の免税坑の免税所得を法人税法第六条に基づき販売収入、石炭原価、一般管理費、雑損益に区分して計算せず、被告人会社の総所得を各坑出炭屯数で按分推計したのは法令適用を誤ったのみならず、判決の所得及び逋脱税額は単なる推測であるから法人税法第四八条第一項の逋脱税額とすることができないのは勿論である。

附記 出炭屯数による按分が炭鉱の業務上いかに不合理で且矛盾にみちたものであるかは、さらに後記事実誤認の項で述べる。

2. 刑事訴訟法第二五〇条第五項、会計法第三〇条

被告人会社の本件起訴事業年度である自昭和二六年四月一日至昭和二七年三月三一日間事業年度は、昭和二七年五月三一日が法定申告期限であるが、本件の申告は、昭和二七年五月二九日になされているから、昭和二七年五月三〇日より三年間即ち昭和三〇年五月二九日に時効が完成する。(刑事訴訟法第二五三条、同二五〇条第五項、法人税法四八条第一項)

次に国が課税権を行史し得る期間は昭和二七年六月一日より五年間、即ち昭和三二年五月三一日までで、同日以降は更正、決定の権限は消滅する。(会計法第三〇条)

法人税法第四八条第一項の逋脱犯に対する法益は国の課税権の侵害を護ることにあるから、刑事訴訟法の時効も完成し、国の課税権も消滅した昭和四一年三月三一日に増額の訴因訂正をしても無効である。

原審がこの無効な訴因訂正論告を正当であると判断した原判決は破棄せられるべきである。

さらに原判決は(五頁)「被告人会社の昭和二六年度の所得につき同二七年五月二九日申告当時における数額を問題にしている」と述べているけれども、この判決理由は弁護人の主張に対する判断でない。ただ当然の事実を述べているだけで判断でもなく見解を示したものでもない。(五頁)「その後の徴税手続の能否により左右されるものではない」と述べているに至っては、裁判所は弁護人の主張がどこにあるのかを理解して居らない。又税というものは、申告、更正、決定という税額確定の手続と、税を納付し又国が滞納処分により税を徴収する手続とが明確に区分されており、今弁護人等が主張しているのは、税額確定の手続としての「更正」の時の制限と刑訴法第二五〇条等との関係であって、「その後の徴税手続の能否」などは一言もふれていない。論旨は甚だしく弁護人の主張を誤解している。

3. 法人税法第四八条第一項(逋脱犯)同法四八条第三項(逋脱税額の徴収)国税徴収法第三二条(逋脱犯)原審判決は「今日に至るまで未だに逋脱税額を納付していない」ことを悪い情状としてあげ、これが量刑に重大な影響を及ぼしているものと認められる。

弁護人等は原審弁論に於て法人税の逋脱犯と、当該税額の納付の有無は関係がないことを行政法の原則に関係法規を引用の上詳論したところである。

しかるに原審判決は何等の判断を示すことなく「未だに逋脱税額を納付せず」とのみのべているだけで、弁護人等の主張を採らない事由がいづれにあるか明かでない。

原審弁論第六項(五一丁以下)並に下記補充事項をあわせ御審理を賜りたい。

(1) 「未だに逋脱税額を納付していない」と判示しているが、原審判決にいう逋脱税額は

六、八五五、六六〇円

である。

「逋脱税額を納付する」のは、法人税法第四八条第三項の「免れた法人税に相当する法人税額を徴収する」とあるものを指称するのであるから、本件判決確定の際に判示の事実が発生するのであって「未だに」納付していないと判示されるいわれはない。

原審判決は法人税法第四八条第三項の規定のあることを知らないためこのような判決理由の記載を行った。

(2) 「未だに逋脱税額を納付していない」の判示事実を被告人会社の自昭和二六年四月一日至昭和二七年三月三一日間事業年度更正法人税重加算税の納付のないことを指摘したものと解釈すれば

(イ) 更正にかかる法人税額 九、七九八、七四〇円

(ロ) 同重加算税額 三、五九五、五〇〇円

である。

(ハ) 判示逋脱税額 六、八五五、六六〇円

と明かに相違する。

両者は通常は相違し或は稀に一致することもあるが、(ハ)の六、八五五、六六〇円は逋脱犯としての逋脱税額であり、(イ)の九、七九八、七四〇円(ロ)の三、五九五、五〇〇円は行政処分上の更正によるものである。逋脱税額は、刑訴法上の手続に従い判決確定すれば確定する。更正税額は行政争訟の手続を経て確定され、刑事裁判の推移とは何等関係がない。逋脱税額は判決が確定すれば直に徴収されるが、更正税額は更正通知の日より一ケ月後を納期として当該税額を追徴される(法人税法第三〇条第一項)

以上によってみても逋脱税額と更正税額には何等関連性がなく「逋脱税額を納付していない」との原審判決は、司法と行政、刑事法と行政法を混同し甚だしく法を無視した判決である。

註 本件起訴事業年度の申告及更正法人税は被告人会社としては滞納して居らない。この点は後出事実誤認の項で述べる。

第二点 事実誤認

原審判決は次のとおり夥しく事実を誤認して居り且これが判決に影響を及ぼすこと明かである。

1. 出炭割合による課税免税所得按分に関する事実誤認

課税坑免税坑の所得を全所得の各坑別出炭割合により按分することは、当然に

免税所得を少く

課税所得を多く

判断する結果となる。

前項法令違反の項で課税坑免税坑の各所得の認定方法が法人税法第六条に違反する旨を述べたが、下記のように甚だしく事実誤認をも行い、本件の判決を誤った。

即ち法人税法第六条は各免税坑課税坑別に販売収入、石炭原価、一般管理費、雑損益を計算して所得を確定すべきところ、原審判決は、本件被告人会社の全所得を先づ算出し、これを課税坑免税坑の出炭割合で按分する方法をとった。

(1) 販売収入、

原審判決は各坑の出炭割合で販売収入中課税坑の低カロリー炭及び免税坑の高カロリー炭が同一炭価で計算されたことになる。

各課税坑免税坑別の販売高収入、販売された石炭の炭質カロリーが算出し得ないいわれはない。

(2) 石炭原価

振興鉱業所に於ける租鉱区第一三四号鉱区(課税坑)と福採登第一六九八号鉱区(免税坑)、丸吉鉱業所における第一坑(課税坑)第二坑(免税坑)第三坑(起業中)では各坑の炭層カロリー採炭方法など原価要素は坑により全くその様相を異にする。

振興鉱業所、丸吉鉱業所の各課税坑は免税坑に比し、炭層、採掘開始時期、坑道の長さ、採掘技術の進歩の度合よりみても著しく採掘条件が悪く当然に原価高になることが明かである。例えば採炭用機械を例にとってみても減価償却費修繕維持費は課税坑と免税坑は区分が明らかに可能であり、且課税坑のものは負担が高くなることは敢て計算してみるまでもなくわかることである。

即ち課税坑の高い石炭原価と、免税坑の安い石炭原価を原審判決のように出炭屯数で按分すれば、免税坑の石炭原価と課税坑の石炭原価を同一単価であると推定したのであるから、明らかに

免税坑原価を不当に多く

課税坑原価を不当に安く

推計したのであり、従って、当然のことながら

免税所得が実際額よりも少く

課税所得が実際額よりも多く

算出されているのである。

(3) 事実誤認をなすに至った事由とその責任

原審の審理の全経過を通じ弁護人は課税坑免税坑別に損益計算により利益を確定するため、その全精力を集中し、検察官は或る段階では、出炭屯数で課税免税所得を按分することの違法性に気付いていながら後の検察官の交代に際し前言をひるがえし出炭按分方式に立証方法を切りかえた(原審第二回弁論第一三項)裁判所は法第六条の本質からどうしても各坑別の損益を明かにする必要性があるとの見地からの訴訟指揮を行わず、弁護人の限られた弁護活動の範囲で収集する証拠を(八頁)殆んど何ら確たる帳簿上の記録を認めることはできず………(九頁)いかなる責任ある地位の者が作成したか判明しない図面………など、確定の必要が絶対にある証拠を傍観して確定の努力を怠り、弁護人の法律上正しい各坑別損益計算書を非難するのみである。裁判所が各課税・免税坑の損益を明らかにするため………真実発見のため………如何なる努力を払ったであろうか。何の努力をも払わずして弁護人の計算が(九頁)「………全体としてバランスを欠き………」裁判所の計算が「………最も合理的で妥当………」であるとどうしていえるのか。事実誤認、これに過ぐるものはない。

2. 課税・免税坑の所得区分を按分するため用いた屯数は極めて不合理な推計屯数である。

(1) 原審判決は免税・課税坑の各所得金額を推計するため各鉱業所の総所得金額を各坑の出炭屯数で按分したが、この按分のため用いた各坑の出炭屯数は

イ、振興、丸吉各鉱業所別の販売屯数に期首期末の貯炭数を加減する方法により出炭屯数を求める。

ロ、次いで人富辰市の供述に基く検炭野取表により各坑別の野取屯数を把握する。

ハ、イの屯数をロの屯数により按分し各坑別出炭屯数を推計した。

(2) これを屯数を以て示せば次表のとおりである。

振興鉱業所

〈省略〉

振興鉱業所では販売面よりの出炭屯数(三六五〇三t)と検炭野取(三六七三一t)の差額は二二八tである。

丸吉鉱業所

〈省略〉

丸吉鉱業所の販売面出炭屯数三三一一五屯と検炭野取二八七一八屯との差額は四三九七屯で検炭野取よりも販売面屯数の方が多い。

(3) 丸吉鉱業所の著しい事実誤認

販売面屯数と検炭野取との差額は振興鉱業所の場合二二八屯野取が多い。

これは次項の丸吉鉱業所のような顕著な不突合屯数でないが、単価五、六六五円(次項に計算根基を記載した。)として一二九万円程度の誤差が生じている。

しかし丸吉鉱業所では逆に野取が販売屯数より四三九七屯少い。(販売屯数三三、一一五屯-野取二八、七一八屯)。四三九七屯は当時の価格からみれば二四、九〇九、〇〇五円に相当する。(丸吉鉱販売一、八七六、一二四円屯数三三一一五屯単価五、六六五円 4397t×5,665円=24,909,005円)

本件逋脱税額算定の基本となる課税所得は二五、八九一、〇〇〇円、申告所得九、五六八、〇〇〇円で脱漏所得は一六、三二三、〇〇〇円である。

判決総所得金額に相当する不合理な金額、脱漏犯則所得と認定された金額の約一、六倍もの金額に相当する不合理な金額について何等の判断を示さず、これを按分の根基に用いたのである。

(4) 丸吉鉱業所屯数の不合理とその原因並に結果。

即ち免税坑と課税坑の所得を出炭屯数により按分するのが不合理なことは前項一及び法令違反の項で詳述することであるけれども、その按分に用いた根基となる屯数のうち、本件課税総所得に相当する四三九七屯約二、四九〇万円の不合理な金額を判断せずに根基となる屯数に用いているのである。

原判決が不合理な推計に推計をかさねたものであることは明らかである。

然らば丸吉鉱業所の野取屯数が販売屯数より四、三九七屯少いことについて如何なることが想定されるのか。

(イ) 不足屯数は被告人会社以外よりの買入屯数であること。

(ロ) 被告人会社の起訴事業年度期首(昭和二六年四月一日)現在繰越貯炭があったこと。

起訴事業年度で繰越貯炭を四、三九七屯喰いつぶしたこと。

(ハ) 被告人会社の経営前の三井鉱山等の残したボタ山の水洗後の石炭を混入させたため四、三九七屯のうめ合せがついたこと。

その他販売屯数検炭野取屯数の違いは現段階ではこれと異る判断は証拠上もできない。

(イ)(ロ)(ハ)何れの場合でも少くとも、四、三九七屯の石炭原価が丸吉鉱業所で多く計上される必要が絶対に生ずる。四、三九七屯は前記のように売価換算二四、九〇九、〇〇五円であるが、原価では二一、四六六、一五四円に相当する(原判決丸吉原価三三、一一五屯、一六一、六八四、八二四円で屯当り四、八八二円)

(5) むすび

以上により本件が免税所得を課税坑免税坑別に損益計算しなかった違法性と事実誤認を除いても、丸吉鉱業所の販売屯数に見合う石炭原価(屯数で四、三九七屯)の発生存在の原因が、いずれにあるにせよ原価が現実に存在しなければならないのであるからこの部分のみでも原判決認定の課税所得金額(五五頁)二五、八九一、〇〇〇円より前記石炭原価二一、四六六、一五四円のうち、課税所得部分に応ずる石炭原価を認容しなければならない。その認容すべき石炭原価は前記(イ)(ロ)(ハ)のいずれにあるにせよその大部分は課税坑にかかる石炭原価であるから、課税所得原判決認定の二五、八九一、〇〇〇円であるとしても、これより前記石炭原価二一、四六六、一五四円を控除した四、四二四、八四六円が課税所得となり、申告所得九、五六八、〇〇〇円を原審判決は著しい事実誤認があり本項のみにても破棄せられるべきである。

3. 法人税納付に関する事実誤認

(1) 原審検察官論告では、本件起訴事業年度の法人税は申告法人税も更正法人税も未納であるから悪質であると述べている。

(2) 申告分法人税が納付済であることは別紙福岡国税局長より被告人宛書面で明らかである。

(3) 更正法人税九、七九八、七四〇円重加算税三、五九五、五〇〇円は同書面によれば未納であり原審判決の情状に於て特に非難するところである。しかしこの未納は原審最終弁論追加のための弁論で詳細に論ずるごとく石炭合理化事業団よりの受入金を福岡国税局に取立委託をした際、同局が国税徴収法に定める充当順位の規定の主旨に従い充当すれば本件更正法人税に充当され納付済であったものを何故か利子税延滞加算税等利子税の進行しない部分より被告人に不利益に充当した結果本件起訴事業年度分の更生額が未納となったものである。

本項は情状といえども上記のような国の行政処分上の誤りにつき被告人が責任を負わなければならない理由はない。

特に原審の全審理の経過を通じ検察官は課税坑免税坑別の損益計算を行えば本件は欠損となることを感知するや被告人会社が事業年度の納税のないことを主張して悪質であることを論告に於て数ケ所に亘りくりかえしている。原審に於て検察官が申告税額すら納付していないと論告し当審に於て納付済であることを証明した福岡国税局長の証明が新に証拠調請求されるとの一事例を見ても検察官の本件に対する態度がいかに刑事訴訟法の範囲を逸脱したものであるかが明かである。

原審判決が税の納付の有無を情状としてではあるがとりあげ、量刑の基本としているが、これは公明性を欠く検察官の立証方法をそのまま信用した上でなされた判決であって、強く非難されるべきである。

4. 各勘定の判断に対する事実誤認

(1) 東京本社費

東京本社費 四、九二一、八二八円五〇銭を出炭屯数で按分し

振興鉱業所 二、五八〇、六七六円 六銭 原審判決三二頁

丸吉鉱業所 二、三四一、一五二円四四銭 〃五一頁

計 四、九二一、八二八円五〇銭

を認容したので、之のため被告人会社が東京本社費として計上した金額のうち

振興鉱業所 一、七九九、六八三円九四銭 原審判決三二頁

丸吉鉱業所 一、二五三、五六七円五六銭 〃五一頁

を原価より否認した。

この否認は出炭屯数で按分した額を根基としているので、上記否認金額は当然推計である。

原審が否認した額は、氏名住所、支出年月日、否認の理由を明かになし得ない金額であるから証拠に基づかない単なる割合を示した額である。

(2) 東京本社費として支出された金額のうち原審判決は三四-三五頁(三)三五、二四二、五六三円五〇銭外四件は本件に関係ないものと判断し否認している。

弁護人は原審弁論二三丁裏以下に於てそのうち五〇、一三六、八六六円については本件の損金として認容されるべきものと主張した。(昭和四一年一〇月七日弁護人第一九回陳述書ホA)

(尤も原審判決は之の計一二、七五八、〇二一円五三銭を認容しているので、当審主張額は差引三七、三七八、八四五円である。)

その認容を主張する理由は、東京本社が炭鉱経営に必要な鉱区買収・金融・社宅・電力・水道・販売・採炭・技術など、あらゆる手段をとったものであり、これなくしては、被告人会社の経営活動は、成立しなかったのである。特に刑事裁判上損金に認容すべき金額は、行政処分上のそれと本質を異にし、故意の有無により判断すべきものである。

原審判決は、弁護人提出の原審弁論二三丁以下につき何等の判断を示さず、否認して居り、税に関する刑事裁判の本質を理解しない甚だしい事実の誤認である。

(3) 雑収入、石炭原価及び経費について

振興鉱業所

(3) 雑収入 五六、五六七円九〇銭

(イ) 石炭原価中否認 二九〇、一三三円四〇銭

(ロ) 〃 七一、八八一円一九銭

(ハ) 〃 一、八八一、九八四円六一銭

(ニ) 〃 四、四二六円

(ホ) 〃 五七四、五六〇円

(ヘ) 〃 二〇、二〇〇円

(ト) 〃 一、一六三、六七四円

(チ) 経費中否認 一一七、二〇〇円

については弁護人等の主張のいかなる点が不当であるため採用しないのか判示しないため不明である。

原審弁論三〇丁裏以下につき御審理を賜りたい。

(3)雑収入五六、五六七円九〇銭は元本有価証券(北九州石炭株式会社株式)が被告人会社の所有に属するとの証拠がない。

(4) 丸吉鉱業所

(イ) 経費中否認 一三、四三六円

(ロ) 〃 四、八五七円

(ハ) 〃 五〇〇円

(ニ) 〃 一六、〇〇〇円

(ホ) 〃 三〇、〇〇〇円

(ヘ) 〃 二〇、〇〇〇円

(ト) 〃 二〇、二二六円

(チ) 〃 四一、一八五円

(リ) 〃 四一、一八五円

(ヌ) 〃 三〇、〇〇〇円

(ル) 〃 三、五〇〇円

(ヲ) 〃 二〇〇円

(ワ) 〃 四、二二〇円

(カ) 〃 四、七〇〇円

はいずれも、被告人田中隆博の行為とは全く無関係の行為であり、その支出につき田中隆博が刑事責任を負わなければならない事情は一切存しない。(別に提出する被告人田中隆博の陳述を御参照賜りたい。)

(ヨ) 石炭原価中否認 一五、〇〇〇円

(タ) 〃 二〇五、七七七円

(レ) 〃 四四九、〇〇〇円

(ソ) 〃 一、五〇七、〇三〇円

(ツ) 石炭原価中否認 一、〇六〇、〇三三円

については、原審弁論三四丁裏三五丁表に主張のとおり減価償却に関する違算等の点は、税逋脱のための行為計算ではないとの点につき事実の誤認がある。本件の刑事裁判上逋脱認定のための判断から除外すべきものである。行政処分上の更正又は決定に際してもこの種の誤びゅうは過少申告加算税(不正計算でないとの認定を受ける)の処分がなされている。

現に原審判決に於ても(苟くも裁判に於て)事実誤認第六項に指摘するように各所に誤算を行っているのである。計算誤びゅうは故意でない。

又退職給与引当金は起訴事業年度中の法律改正により損金引当が出来ることになった為損金に引当てたところ、法人税法施行細則に定める様式への記入がなかったとの点につき不備はあっても刑事裁判上上記減価償却費の計算関係と同様、積極的に故意を認定し得る項目でなく、原審判決はこの点事実を誤認している。

(5) 以上諸勘定の事実誤認の点につき、特に

(イ) 諸勘定否認項目は、刑事裁判上逋脱の故意を積極的に認定し得るものはないこと。

(ロ) 被告人田中隆博の行為と認定されている女児服物等の計費算入の点につき田中隆博の行為は無関係であること。

(ハ) 東京出張所経費の推認(屯数按分の割合による認定)は著しい事実誤認であること。

(ニ) 課税坑免税坑の按分を屯数で按分することが誤りであるとの点に関連し否認項目が課税坑免税坑の各いづれのものであるかの判断を示していないのは違法且つ事実誤認であること。

につき充分の御審理を賜りたい。

5. 原審認定の総所得金額は財産計算上のうら付が一切なされていないこと並にこれに関連し丸吉鉱業所仮払金中不良資産に関する事実誤認

(1) 昭和三四年一〇月三一日事実上申書に於て上申した項目のうち第四貸倒による損害について、昭和二七年三月三一日現在丸吉鉱業所仮払金勘定中にふくまれる四九、七八九、九九六円〇九銭の八件の不良債権のうち特に山吉炭坑の三八、八三九、五七三円はいづれも本件起訴事業年度中に不良債権となっているものである。(久富辰市陳述書に依り昭和二六年一〇月断層に突当り採炭不能となった)

(原審検察官の訴因訂正論告G5のうち丸吉鉱業所貸借貸照表仮払金)

(2) 弁護人等は上掲上申に於て詳細に不良債権の事情を具申し、又原審弁論三七丁裏以下に於て裁判例及び関係法令を引用の上、刑事裁判の本質上、財産価値のない架空資産を認定して逋脱を認定することは誤りである旨を詳論したのであるが、原審判決は之につき何等の判断を示していない。

(3) 本件が何故不良資産に対する判断(貸倒として損金に判断すること)をなさないかとの点につき思料するに、本件は損益計算のみで裁判を行って居るが、原審認定の所得が現実に価値ある財産として被告人会社の資産になって居るかどうかの判断を全く無視したからである。損益計算により所得を認定する場合、財産面の検討を全部無理して判断する為本項主張の貸倒の点は全く判断外となるのである。

(4) 原審判示総所得(免税所得控除前)は一二四、二五九、九三三円七七銭であるが、本件を起訴事業年度に於て、これに相当する財産増加を生じたかどうかの検討が一切なされていない場合判示所得金額は真実に近い所得と認定し得る理由はない。特に前項主張のとき貸倒発生事実については損益計算書勘定の精査をいくら入念に行っても認めることはできず、財産価値の検討(評価でなく取得価格に相当する財産の保持がなされているか)によってはじめて確認できるものである。

即ち原審判決は財産計算面の検討を一切行っていないため総所得金額の合理性真実性のうら付がなく特に莫大な金額にのぼる貸倒の認定に関連し著しい事実誤認をなしている。

6. 原審判決理由中の計算誤謬

原審判決理由中には下記のとおり計算誤謬がある。

(1) 七一頁末尾より二行目合計一、九六三、四九八・五三は一、九六三、四四八・五三が正当

(2) 七五頁最上段償却不足額 超過額一、三五五、九九九は一、三三五、九九九が正当

(3) 七六頁末尾より四行目償却不足額 超過額一五九、四一九は一五九、四五九が正当

(4) 七八頁最下段償却不足額 超過額合計五二二、二四四は五〇二、二〇四が正当

むすび

以上によって明かなように原審判決は刑事裁判上許すことのできない違法の推定によって逋脱所得を推計し、国の租税債権の時効完成後に税額を増加する訴因の変更をなし、更に出炭屯数による課税坑免税坑の所得按分且つ課税所得を過大に免税所得を過少に推計し、丸吉炭坑に於ける原価に算入すべき、四、三九七屯の不突合屯数を無視し、納付済となるべき税額を未納と認定し、その他諸勘定に於ける莫大な金額の誤りにより、夥しい法令違反、事実誤認及び判決理由のくいちがいをおかしている。なお本控訴趣意書記載に関連し、原審弁論に於て各科目毎に詳論しているのでこの点充分御審理を賜りたい。

これらのいづれの一つをとりあげてみても到底原審判決が正当であることを証明することはできない。

○ 控訴趣意書

被告人 振興鉱業開発株式会社

外一名

右の者に対する法人税法違反被告事件につき左の通り控訴の趣意を陳述する。

第一点 原判決は振興鉱業所と丸吉鉱業所の出送炭を各坑別に確定しているがその方法は免税課税の両坑が何れも異った炭層より石炭を採堀しカロリー炭丈、山丈硬の狭み等採掘条件を著しく異なるものを同一のものと看做し按分比例の計算方法を採用しその数字によって被告人等を有罪と断定していることは一件記録に徴して明白であるがこれは判決に影響を及ぼす事実を誤認しているものである。

第一、原判決は石炭は何れもカロリー歩溜り等採掘条件を異にすること、然も本件の課税坑と免税坑とは何れも異った石炭層を採掘しているので事実に則した区分計算ができるしそれは法人税法の免税の立法趣旨に従うものであり且つ刑事裁判の真実発見の原則を忠実に表現するものである。

然るに原判決は漫然と何れの石炭層本件の場合は四尺層、五尺層、香春八尺層、田川四尺層、田川八尺層を全然同一のものと誤信し按分比例の区分計算方法によっているのは極めて不当である。

第二、原審にての証人塩出幸男、曽我部薫、小山内弘、渡辺藤次、川原紀明、被告人田中隆博の供述その他統計法によるもの出送炭に関する帳簿類及通産局長の証明書によって振興、丸吉両坑炭層比較表を左に添付する。

振興、丸吉両坑炭層比較表

〈省略〉

第三、原判決は振興炭坑の出送炭を別表一のとおり認定しているがこれは実際とは非常に違っている。

(1) 振興炭坑の旧坑(課税坑)新坑(免税坑)との合計の出炭函数とそれぞれの出炭函数は弁護人の主張した通りであり全体の出炭は判決の三六、五〇三屯と弁護人の三六、五〇四屯と僅か一屯の相違である。

(2) 然しこれが課税坑と免税坑との区分計算になると原判決は玉石混淆同一のものとして按分計算しているがこれが不当であることは既述の通り明白である。

(3) 課税坑と免税坑の区分計算については左に函数から具体的に屯数に換算した石炭の各層の実際に最も近い方法で区分計算したる弁護人作成の左記の通りが正確なものである。

振興炭坑各坑別出炭表

(4) これによれば振興炭坑の各坑別出炭量は

旧坑(課税坑) 四、〇四〇屯

新坑(免税坑) 三二、四六四屯

合計 三六、五〇四屯

(5) これに検炭野取表よりの出炭函数と各坑各別に統計上と予定表に基く左記別表二葉を添付する。

〈省略〉

1. 出炭函数は出送炭実績表、通商産業局長証明書、其の他により実際の数字である。

2. 尚出炭函数は鉱員の賃金の基礎となるもので正確な数字である。

3. 歩溜りは以上の証拠の外

被告本人田中隆博供述、証人小山内弘、三浦伊佐美、曽我部薫、渡辺藤次の各供述、その他の記録に基く正確なものである。

4. 四捨五入によらず切捨ての計算を採用した。

5. これが正しい振興炭坑の各坑別出炭である。

6. 〈省略〉 〈省略〉

差額37屯を区分したので下記の通り

〈省略〉

新坑旧坑の出炭区分明細表

自昭和二十六年四月

至昭和二十七年三月

〈省略〉

〈省略〉

第四、特に丸吉炭坑の出送炭並期末貯炭は非常に違った数字を認定しているので之を照合比較するとその矛盾が明白となる。

(一) 原判決は別表一として

振興鉱業所昭和二六年度当期産出鉱量明細表を作成添付している。

然しこれと同様なものは丸吉炭坑については作成されていない。

これはこのようにすれば実に四、〇二三屯という何か分らない数量の石炭が現はれてどうしても作成できぬからである。

(二) 原判決別表の二

によると丸吉炭坑の各坑別出炭量を左の通りに認定している。

丸吉一坑 二〇、九〇七屯

丸吉二坑 七、六七〇屯

丸吉三坑 一四一屯

合計 二八、七一八屯

(註) これは換算率を〇、四二として計算しているから出炭函数は六万八、三七六函一九となる。

(三) 更に原判決は本文において別表二に検炭野取の段階で捕促し比率で按分し丸吉炭坑の坑別出炭量を左の通り認定している。

イ、第一坑 二万四、一〇八屯

ロ、第二坑 八、八四四屯

ハ、第三坑 一六三屯

合計 三三、一一五屯

(四) これを〇、四二で逆算すると七万八、八四五函となり右との差額壱万四百六拾八函を更に〇、四二にて屯数に換算すると四、三九六屯という説明できぬ数量の出炭が何れかであったこととなりこれは大いなる矛盾である。

(五) 強いて丸吉炭坑について振興炭坑の別表一と同様なものを作成すれば左記添付書類のようなものとなって算数上虚無の石炭となり期末貯炭もなくなるが参考資料として之を左に作成の上

A、丸吉炭坑出送炭明細表

と題して添付する。

A.丸吉炭坑出送炭明細表

〈省略〉

(六) 次に出炭と売炭、自家消費炭の関係及び期末貯炭が零となること並田川四尺層の優秀炭に二、五〇〇カロリーから、三、〇〇〇カロリーの出炭外の硬等よりの四、〇二三屯を混炭販売したることこれは免税坑の出炭に混炭販売した収入であるから法人税法に所謂附随の所得で免税所得であるのに原判決はこの法理に違反していること左の通りである。

これを明白にするため左に

B、丸吉炭坑出送炭実績表を添付する

B.丸吉炭坑出送炭実績表

〈省略〉

1. 田川四尺層の高品位の優良炭4.023屯を混炭販売している。

2. 出炭屯数と販売屯数が全く一致する。

3. 期末貯炭は零

丸吉炭坑低品位炭(5.000カロリー以下)販売表

〈省略〉

(1) これは送炭明細簿より1カロリー当り単価94銭より1円迄1屯当り5.000円以下にて販売したものを抽出したものである。

(2) その詳細は昭和37年5月26日付第拾壱回陳述書10丁より11丁迄に記載されている。

(3) 自家消費炭は何れの炭坑にても低品位を使用しそれは主として風呂であるから勿論5.000カロリー以下である。

(七) 丸吉炭坑の石炭の販売に関しては送炭明細簿により第九回陳述書、特に五、〇〇〇カロリー前后販売の明細については第拾壱回陳述書第拾五回陳述書にあらゆる方面から証拠に基いて明瞭に算数上確定している。

(1) 其の一部四、三四一屯について左に概要を表として添付する。

丸吉炭坑低品位炭(五、〇〇〇カロリー以下)販売表

(2) 更に月別販売先販売数量、自家消費炭、田川特売につき丸吉炭坑販売明細表左に添付する。

丸吉炭坑月別販売消費明細表

丸吉炭坑月別販売消費明細表

〈省略〉

第二点 原判決には理由にそごがあったり理由不備で刑事訴訟法第三七八条第四号の理由があるものと思料する。

第一、第一点で弁護人は事実誤認としてその点につき主として陳述しておるがその誤認に至る経過については原判決に理由がそごしたり不備であったことによるものも存在するのである。

これは昭和二六年度という一会計年度の炭鉱会社の経理の全部を綜合し証拠により理由づけ各項目別に確定すること特に本件においてはその収支を明確にすること即ち法人税の申告が不正に行われているや否やであるしその項の法人税法の収支項目については別段の規定がなく所謂益金損金を認定していたからであるし特に交際費と称するものは無制限に之を認め当該年度の益金から損金を支出してその残額に〇、四二を乗じたものが法人税額であったからである。

第二、原判決中特に右理由不備な点を左に列挙しその証拠を援用する。

(一) 原判決の罪となるべき事実の認定が不当でこれ全く事実誤認に基くことは既述したが更に免税坑と課税坑の所得、損失を公正に適当な方法で区分計算して免税の立法趣旨に従うべきことは松井静郎の証言、同人外の法人税に関する二冊の著書によって原判決がバランスを欠くとか区分が困難とか種々の理由を述べている当裁判所の一般的見解の第五項は理由全くそごし不備なものである。

(二) 昭和二六年度被告会社の各坑別出炭について振興炭坑、丸吉炭坑の各坑別出炭屯数の認定は  のような数字上原判決のような最終的な数字とはならないのでその理由は不備である。

(三) 丸吉炭坑、振興炭坑共に地元での交際費に見合うものとして一屯当り二〇〇円を交際費としたものを不当と認定したるは理由なき認定である。

それと経理の者が未熟にして交際費に該当する会長本宅を炭坑のクラブとして使用したことに関連する費用或は名前を出しにくい人々への贈与品を異った項目に変えて処理したものの大部分が所謂石炭原価不当と認定されているもので証人田中フサ子証人西沢良雄、田中隆博被告人の供述により明らかであり且つ炭坑で地元にも寄贈、関係者への贈与、飲食が実に多額の出費を要することは現在でも然りである。

第三、丸吉炭鉱関係の損益計算が別表七のとおりではないことは原判決の事実誤認理由不備である。

(一) 販売収入一億八、七六一万二、六二三円八一銭ではない

(1) 送炭明細簿これを区分した弁護人提出の昭和三六年六月三〇日付第九回陳述書のとおりである。

(2) 石炭原価中の自家消費炭が二百五屯でその代金は七八万二、五〇六円五五銭であることは判決と弁護人主張と同一であるから八一銭の端数がある筈がない。

それは石炭は円単位の売買であったからである。

(3) 然して販売屯数も販売費も各種証拠と異なっているので原判決の認定は誤っている。

(二) 丸吉炭坑の販売収入と屯数、自家消費、運賃は左の通りである。

(1) 販売収入は一億八、六七三万四、七三一円五五銭である。

(2) 自家消費は二百五屯で七八万二、五〇六円五五銭である。

(3) 従って壱億八千六百七拾参万四、七二九円が前記送炭明細簿のとおりでその差額八十七万八、四〇〇円は一六四屯の山吉炭坑の石炭の販売代金を混入しているのである。

(4) 販売費は前記陳述書6丁のとおり八百二十二万五、八六〇円が正当である。

(5) 販売屯数は三万三、二九四屯が正確なものである。

(6) 以上を簡明に之を数字を以て体系的に表示すると次のとおりである。

(三) 期末貯炭八四万四、六七六円八七銭

これは原判決で一七三屯とし一屯当りは四、八八二円五二銭と確定しているが一七三屯で一屯当右金員とすれば八四万四、六七五円九六銭となり且つ期末貯炭は期末に残っている石炭を測定し原価で価格を決定するものであり原判決のような方法によるものではないことは明かである。

のみならず弁護人が従前から主張立証しているように零でありこれは出送炭の実際の数字上極めて明白に立証できるのである。

検察官は当初期末貯炭を二〇四屯としていたがこれは昭和二六年九月末日現在即ち上半期そのまゝの数字を恰も期末の貯炭のように誤信していたので全体の出送炭と数千屯が不足炭が計数上不一致していた。従って期末貯炭は零であること算数上も明白である。

丸吉炭坑の

B 丸吉炭坑出送炭実績表

を参照のこと

更にその基本をなす第十五回陳述書中の十一頁より抜萃し左に添付する。

「丸吉炭坑の坑別炭層別実際出炭屯数計算書

丸吉炭坑の坑別炭層別実際出炭屯数計算書

〈省略〉

1. 出炭函数は検炭野取帳並日別出炭予定実績表のものである。

2. 田川四尺層6.189函の4.023屯は混炭販売したものである。

(四) 石炭原価一億六一六八万四、八二四円一九銭について

(1) 検察官も丸吉炭坑の石炭原価の内訳明細表を作成し得なかった。

原判決も然りである。

(2) 丸吉炭坑の石炭原価は左の通り変化限りなきものであった。

(イ) 当初の起訴状 一六三五三五、二四七円〇九銭

(ロ) 訂正起訴状 同一

(ハ) 最終起訴状 一五五五三一、六二三円五三銭

(ニ) 判決 一六一六八四、八二四円一九銭

(3) 然してこれは石炭原価不当が単なる経理係の費目が間違っていることやクラブの費用を会社負担としておったに過ぎないので当初の起訴の金額を上廻るものである。

(五) 販売費八〇〇万二、七九七円

右が実際帳簿上八二二万五、八六〇円なることは第九回陳述書に詳細を記載しているので原判決の理由は不備であり事実を誤認しているものと思料する。

(六) 結局原判決は最終的に丸吉炭坑全体の収支を確定しその間の出炭量を按分比例し最后で右収支を更に按分比例しているので実際に全く合致しない数字の羅列で理由に不備あり従って課税所得の認定は事実誤認になるものと思料する。

第四、原判決は丸吉炭坑同様に振興炭坑関係についても事実誤認廷いては理由不備の違法があるものと思料する。

(一) 販売収入二億一八二七万六、八七二円

これから自家消費の一一一屯三三万八、三九四円を控除し販売費一〇四二三、二七〇円を差引くと一屯当り五、六七五円となる。

然るに振興旧坑は四尺層の五、〇〇〇カロリーの出炭量の収入として認定すべきである。

(二) 期末貯炭五一万五、七三一円九七銭

この屯数は一九〇屯で一八九屯ではない。

且つ期末貯炭の屯数並価格の決定方法は原判決の理由並証拠では一九〇屯となる。

価格は当時即ち昭和二七年三月の石炭原価一屯当りで計算するものである。

(三) 営業外収入の五六、五六七円九〇銭中には田中彰治個人の北九州石炭の配当金壱万五、四二六円九〇銭が含まれているから之を控除すべきである。

(四) 石炭原価

(イ) 当初―――一〇〇九四三、二五三円二九銭

(ロ) 次に―――一〇一四三一、七一〇円二九銭

(ハ) 更に――― 九二五二〇、三三八円四〇銭

(ニ) 原判決―― 九九六〇七、二一八円七三銭

これを丸吉炭坑と同一の主張立証で(ロ)よりやゝ上廻るものである。

(五) 結論として振興炭坑も課税坑、免税坑を厳格に出炭函数が明瞭で一点の疑いのない数量であるから之を正しい歩溜りに換算しそれを正当なカロリー(石炭は一カロリーにつき八〇銭とか一円とか一円二〇銭とかの取引で円単位のものであることは公知の事実である)による収入を確定し計算することは免税の立法趣旨と刑事裁判の真実発見の原則に従うものと思料し弁護人はこれに基き一切の計算を為したるもので原判決は理由不備或は理由そごし従って事実を誤認しているものである。

(六) これ等の主張、立証は何れも原審の証拠を援用するものであるがそれを別表として添付する。

「援用証拠目標」

特に下坂卯一の供述中

48項「島添義平という人はどういう免税に関する申出があったと証言したわけですか私の方の誤で調査しましたときはそういうことをいっております」

とある分を援用する。

援用証拠目標

上申書 昭和三四年一月一三日付弁護人提出

事実具申書 同 年一〇月三一日付 同

第二陳述書(其の一) 弁護人提出分

第六陳述書 同

第三事実具申書 同

第九回陳述書 同

第一一回陳述書 同

第一四回陳述書 同

第一五回陳述書 同

証人松井静郎供述 昭和四一年一月一二日

第一八回陳述書 弁護人提出分

第二〇回陳述書 同

証人曽我部薫供述 二二回公判

同 久富辰市供述 二回共

同 小山内弘供述 第二七回公判 昭和三九年二月二一日分

同 西沢良雄供述 昭和三五年一〇月一五日

同 川原紀明供述 三一回、三八回

検証調書

証人渡辺藤次供述 三六回

同 三浦伊佐美供述 第三七回公判分

同 下坂卯一供述 二〇回

被告本人田中隆博供述 第四一回公判

証人亀谷実雄供述 昭和三四年九月一五日

同 塩出幸男供述 昭和三四年六月一三日

同 塩出寅己供述 同 年六月一二日

銘柄別出送炭実績表

送炭明細簿

弁解上申書

検炭野取帳

日別出炭予定実績表

福岡通商産業局長証明書

炭柱図

カロリー分析表

第五、以上は主として原判決が振興炭坑、丸吉炭坑の各出炭函数が確定しているに拘わらず何等証拠によらず独自の見解で免税坑と課税坑を一律に同一物視しその事実誤認なることこれより各坑別の所得が実際とは甚だしく違ったものとなっている点を指摘した。

尚これ等を一層明白に計数上原審の証拠物に基き系統的に一見明瞭ならしむるため左にそれ等の書面を添付する。

1. 丸吉炭坑販売総括表

2. 丸吉炭坑各坑別出炭総括表

Ⅰ 丸吉炭坑販売総括表

〈省略〉

Ⅱ 丸吉炭坑各坑別出炭総括表

〈省略〉

判決の別表について

別表一 振興鉱業所昭和二六年度当期産出鉱量明細表

丸吉鉱業所の分はない

別表二 丸吉鉱業所の各坑別出炭区分

振興鉱業所の分はない

別表三 振興鉱業所損益計算書

別表七 丸吉鉱業所損益計算書

別表四 振興鉱業所販売収入明細表

丸吉鉱業所の分はない

別表五 振興鉱業所石炭原価内訳明細表

別表八 丸吉鉱業所石炭原価内訳明細表(但内訳明細がない)

別表六 振興鉱業所減価償却費算出関係諸表

別表九 丸吉鉱業所減価償却費算出関係諸表

丸吉炭坑石炭原価内訳

〈省略〉

〈省略〉

第六、振興炭と丸吉炭坑とは全然免税坑課税坑共異なった石炭層を採掘しているしそれに基く能率も異なるこれを数項目につき数字上比較対照すれば極めて明瞭となるので左にその表を添付する。

振興炭坑、丸吉炭坑各坑費目比較表

第七、結局において左記の通り課税坑だけを実際に最も近い方法で収支計算すると左記の通り振興炭坑において六八六万九、二三七円四五銭の利益即ち黒字となるも反面丸吉炭坑にては実に千六百八〇万七、三二〇円〇一銭の損失赤字となるものである。

左にこれを添付する

振興炭坑(課税坑)損益計算書

丸吉炭坑(課税坑)損益計算書

振興炭坑、丸吉炭坑各費目比較表

〈省略〉

振興炭坑(課税坑)損益計算書

〈省略〉

丸吉炭坑(課税坑)損益計算書

〈省略〉

第三点 原判決の刑の量定は不当である。

(一) 原判決は本件犯情につき考えるに、本件は正規の所得に対して脱税所得の占める割合が大きく当時としては相当巨額な脱税行為であったこと並その方法が悪質であること会社経理の実態を曖昧にしていること今日に至るまで未だに逋脱税額を納付していないことなどの悪い情状がある。

反面実権は会長たる父に握られ殆んどそのいうまゝに動いている気配の窺はれること、本件により既に会社は閉山整理しその実態は失はれていることなどを考慮し被告人田中隆博に対し懲役六月及罰金五〇〇万円に処し被告会社に対し罰金五〇〇万円に処する旨並被告人田中隆博は懲役刑については二年間その執行を猶予し罰金刑については一日一万円に換算する旨判決を言渡した。

(二) 本件は石炭鉱業の新設免税に関連して会社側と税務署側とが免税に近いものとして納税するということになりこれに基いて帳簿類が整理されたもので脱税の犯意がないものである。

この点上申書(昭和34年1月13日付弁護人提出のもの)証人田中房子被告人田中隆博の供述並田中隆博検面調書、赤城潔の検面調書参照

特に被告人田中隆博の昭和三〇年五月九日供述調書の六項に於て

「此の時領置に係る昭和二六年度分振興鉱業の確定申告書を示した。

申告の所得額九百六万八千三百三十三円というのは当時振興炭坑が新設免税にかゝるという考えで税務署と色々交渉しました末話合に依り右金額に決まったものではないかと思います。」

東京地方裁判所にて証人田中フサ子の証言中新設免税につき税務署と交渉し書類を整理するようなことがあったし免税は三年ということであった旨

同じく証人柳浦隆三が免税に関して申告した旨の供述それから赤城潔の経理の係りとして常に免税申告につき社長田中隆博から申し渡されていたことで明白である。

(三) 次に被告人田中隆博は自ら何等の利得をせず且つ申告の税金は納入した事実があるので特に罰金五〇〇万円を併科したのは全く刑の量定は不当であるものと思料する。

(1) 福岡国税局は昭和四二年一月二三日石炭鉱業合理化事業団の受入金の明細について(昭和四二年一月二七日第五五回公判に弁護人より提出)の書面に特に

(自 昭和二六年四月一日 至 昭和二七年三月三一日)

事業年度の昭和三〇年六月二七日更正にかゝる法人税は現在迄未納でありますから念の為申し添えますと公文書を発行している。

(2) 処が石炭鉱業合理化の債務処理については各省の事務次官会議でその処理要綱が決定され国税は法人税、源泉等を問はず昭和二六年度より優先すべきこととなって居り福岡国税局は先づ昭和二六年度より徴収すべきを之を怠って被告人等に甚しく不利益な取扱をしているしその取扱は右要綱に違反している。

(3) 其処で福岡国税局相手では到底完全な法人税等の納入関係を明白に為し得ないと思料したので直接大蔵省に照会したところ昭和四二年五月一三日付で福岡国税局から回答があったがその内容は極めて不明瞭である。

(イ) 昭和二六年度分につき会社は中間納入していることについて四〇一万八、五六〇円は納入済であるようにも記載している。

(ロ) 中間納入は昭和二五年度の再更正以前の分だろうと思うが諸帳簿は廃棄処分して納付の経過は判明しかねるとも記載している。

(ハ) 更に物件を公売して徴収しているのであるので明確にしてくれとの照会については未だよく調査ができていないとも記載している。

(4) 従って今回の回答と原審の回答とを照合すると丸吉炭坑の炭住の公売による徴収金を除いて左記の通りとなり昭和二六年度の法人税額は如何なる観点よりするも納入済みでなければならない関係にあるので被告人田中隆博に罰金五〇〇万円を併科したのは刑の量定が重過ぎると思料する。

(5) 左に対照表を添付する。

A、福岡国税局の原審記録中の回答左の通り

入金 壱千壱百六拾九万五、九二三円

支出の主たるもの(法人税のみ)

イ、昭和二七年度の利子税 三七万三、一八〇円

同 法人税 六三〇万〇、三八八円

ロ、昭和二八年度法人税 一三五万四、四四三円

B、福岡国税局の昭和四二年五月一三日付回答左の通り(法人税のみ)

(イ) 昭和二五年度 未収

(ロ) 昭和二六年度 四〇一万八、五六〇円収納済

(ハ) 昭和二七年度 八七八万五、一二四円収納済

(四) 更に被告会社の経理課長、その他経理関係者は何れも炭坑経理に習熟せず本件を惹起したものである。即ち福島太郎、赤城潔を主として中小炭坑の経理に未熟であった点、会社はその頃交際費、寄付金、所謂会長本宅を会社のクラブ同様に使用しながら会社、個人の区別を明確に為し得ず本件を惹起したものであることは一見記録に徴して極めて明白である。

(1) 振興炭坑も丸吉炭坑も各坑共に全く異なった石炭層従ってカロリーも炭丈も山丈も採掘条件も異なるし免税坑、課税坑もそれと共にする実状でありながらそれを区分計算しなかったこと。

(2) 振興炭坑も丸吉炭坑も何れも石炭原価において原判決別表五のように振興炭坑において一九六万三、四九八円五銭別表八のように丸吉炭坑において八〇八万八、八九四円五八銭何れも過少記載していること。

(3) 赤城潔の昭和三〇年四月二九日付検面調書によると前年度否認の退職給与、鉱害補償引当四〇〇万円は当然昭和二六年度に認容せらるゝと思料したが附属書類に記入しなかったので認められなかったこと。

(4) 結局石炭鉱業の実体によって真実に近い振興炭坑、丸吉炭坑の両坑の内課税坑に属する出炭量を正確に区分計算することは簡単にできることであり之を明瞭にするため左に両坑の課税坑の収支を簡明に記載して脱税とはならない旨強調し以て被告人田中隆博に対する併科の罰金刑は重過ぎる旨陳述する次第である。

振興炭坑、丸吉炭坑課税坑の損益計算書

「説明」

1. 振興旧坑の出炭量四、〇四五屯は既述の通り

2. これが五、〇〇〇カロリー程度であること

3. 期末貯炭、繰越貯炭其の他の詳細は第二〇回陳述書参照

4. 振興炭坑の課税坑

利益六八六万九、二三七円四五銭

(1) 丸吉一坑、丸吉三坑は販売収入、期末貯炭零

石炭原価は函数で営業外支出は丸吉二坑分につき除外したその詳細は第二〇回陳述書参照

(2) これによると丸吉一坑丸吉三坑の課税坑の損益は

損失一、六八〇万七、三二〇円〇一銭である。

振興炭坑課税坑損益計算書

〈省略〉

丸吉炭坑課税坑(一坑三坑)損益計算書

〈省略〉

右の通り控訴趣意書を提出致します。

昭和四二年六月三日

右弁護人 徳永竹夫

福岡高等裁判所

第二刑事部 御中

昭和三〇年(わ) 第四七四号

控訴趣意書

被告人 田中隆博

外一名

右の者に対する法人税法違反被告事件の控訴の趣意は左記のとおりである。

昭和四二年六月五日

右被告人 田中隆博

福岡高等裁判所 御中

(一) 「被告人田中隆博は被告会社の法人税を逋脱しようと企て」云々は事実誤認である・・・・・・一五六四

(1) 振興鉱業開発(株)の実権者の事実誤認・・・・・・一五六四

(2) 国税局の指示に依る・・・・・・一五六五

(3) 被告人田中隆博は免税の指示等をして居て脱税の意志はなかった・・・・・・一五六六

(4) 脱税行為は本人の利得がある為にするのが常識だが被告人田中隆博に一銭の利得もなかった・・・・・・一五六七

(5) 質問てん末書(昭、二八、六、二日)田中房子・・・・・・一五六八

(6) 経理担当者の技術未熟と国税局の態度について・・・・・・一五六九

(7) 国税局の指示に従い国税局から告発を受けた・・・・・・一五六九

(8) 判決七頁(4)項について・・・・・・一五六九

(9) 被告人田中隆博個人に脱税等という意志はなかった・・・・・・一五七〇

(二) 課税所得と免税所得は出炭屯数按分の計算は事実誤認並に明らかなる法令違反である・・・・・・一五七一

(三) 歩留と原価について事実誤認である・・・・・・一五七三

(四) 混炭四三九七屯(判決)は免税であり此の石炭を按分配分する事は二重の事実誤認である・・・・・・一五七六

(五) 本社業務の実態の事実誤認・・・・・・一五七八

(六) 礦害賠償金の否認は事実誤認である・・・・・・一五七九

(七) 東京本社費並に東京本社経費の事実誤認・・・・・・一五七九

(八) 固定資産償却費の事実誤認・・・・・・一五八〇

(九) 租礦区料償却の事実誤認・・・・・・一五八一

(十) 退職引当金否認は事実誤認・・・・・・一五八一

(十一) 四〇〇万円否認は事実誤認・・・・・・一五八一

(十二) 木材代の事実誤認・・・・・・一五八二

(十三) 北九州石炭(株)の配当金否認は事実誤認である・・・・・・一五八二

(十四) 山吉炭礦の貸倒金否認は事実誤認であります・・・・・・一五八二

(十五) 納税について事実誤認・・・・・・一五八三

(十六) 本件は重大なる法令違反並に理由の食い違並に膨大なる金額にのぼる事実誤認がある・・・・・・一五八六

(十七) 本件で一円だに納税していないと云われた分が又納税している事が判明した事実誤認・・・・・・一五八七

(一) 「被告人田中隆博は被告会社の法人税を逋脱しようと企て」云々は事実誤認である(判決三頁)

(1) 振興鉱業開発(株)の実権者の事実誤認

(イ) 第一回辨論要旨名川保男辨護人(昭、三九、一二、八日)九丁裏~十丁裏迄記載機械器具の如く全くロボットに過ぎない。

(ロ) 第十一回準備手続調書(昭、三八、五、一三日)

(ハ) 判決五七頁実権を会長たる父に握られ殆んど其の言う儘に動いている気配の窺はれる事。

(ニ) 東京送金並に本社に於ける五千数百万円の使途計画管理、指示、命令、交際、渉外等全部会長田中彰治が行っている事実。

(ホ) 其の他従業員は、会長として総て命令決裁を得ている事(各てん末書、供述書、公判調書等)

(ヘ) 一八回公判調書(昭、三三、一〇、一四日)福島太郎田川に行った。〈36〉〈52〉田中会長応接間。〈75〉

(ト) 一九回公判調書(昭、三三、一〇、二〇日)下河内邦彦。

(チ) 一八回 〃 ( 〃 )赤城潔。

後から来た〈60〉〈62〉〈63〉〈64〉〈72〉田川の田中彰治宅で打合せたと云っているが、どんな会議にしても被告人田中隆博に実質の実権があるなら社長であるのだから被告人の居住している飯塚の炭坑に呼び付けて打合等総て出来る筈であって、二〇数キロ離れた、でこぼこ道をガタガタトラック等に乗って行く理由はない。

(リ) 尚第一八回公判(昭、三三、一〇、一四日)

問答(60)被告人田中隆博は長く居ないで退場した。社長が居なくても良い様に他に実力者が居た筈である。

(ヌ) 本社は勿論、各鉱業所、振興、丸吉の人事、事業計画は総て田中彰治が行った。

飯塚振興炭坑赤城係長、福島課長、西本所長、丸吉炭坑渡辺所長等は東京本社で採用し、各鉱業所へ配属されたものである。即ち田中彰治の直接の採用である。

(ル) 質問てん末書(昭、二八、六、二日)田中房子。

問答〈7〉会計に不正が起らない為に押してある。(田中彰治直属の権限の強さを表す)

(ヲ) 公判調書(昭、三四、六、一三日)塩出幸男

問答(7)田中彰治が一番大将であるという事は知って居りました。

(ワ) 公判調書(昭、三五、五、一九日)田中房子。

問答〈3〉〈4〉田中彰治が作った会社である。そして初代社長は田中彰治。

(2) 国税局の指示に依る

(イ) 判決一一頁〈2〉昭、三〇、五、九日検察官供述書、「田中隆博中、申告所得は当時振興炭坑が新設免税にかかわると云う考えで税務所(国税局の事)と色々交渉しました末話合いに依り右金額に決ったものではないか」云々

(ロ) 昭、三四、一、一三日福岡地方裁判所刑事部宛辨護人上申書「他人の指示に依り」他上申書中全般記載。

(ハ) 公判調書(昭、三四、五、一八日)三浦伊佐美。

問答〈35〉国税局と話合成立。〈79〉〈138〉〈141〉の如く話合及び指示に依る。

(ニ) 質問てん末書(昭、二八、八、八日)野瀬修。

国税局員野瀬修氏の居る前で島添主査官に図面を以って免税の口頭申請をなした。彼は現職の為後難をおそれ記憶判然としないと云っている。

(ホ) 質問てん末書(昭、二八、七、一八日)島添義平。

「その折免税の事について話しがあった事は事実で有ります」其の時「新設免税の手続も面倒だし税金で免税の様に考慮するから」と云われ今日本件の結果となった訳です。

(3) 被告人田中隆博は免税の指示等をして居て脱税の意志はなかった。

(イ) てん末書(昭、二八、七、二一日)赤城潔。

問答6回目免税申告については私の顔を見れば申告する様云いつけて居った状態です。

問答7回目欠損でも免税申告はする様申しますので、私は所轄飯塚税務署に免税申告の方法を聞きに行った。

問答8免税の指示した。

(ロ) 質問てん末書(昭、二八、七、二四日)福島太郎。

問答3.5.10回目田中隆博は免税のことを思い出せば免税になるものかどうか研究して申告をしたらどうかと再三言っていた。云々

(ハ) 公判調書(昭、三三、一〇、一四日)赤城潔。

問答116新設免税に依る免税の申告を今年は間違なくやれと云う事をしょっちゅう云われていた。

(ニ) 問答134国税局員に免税口頭申告135136免税口頭申告。

(ホ) 公判調書(昭、三四、五、一八日)三浦伊佐美。

問答〈33〉〈34〉免税につき国税局員に口頭申告。

問答35国税局の指示。

〃115 〃

〃121 〃

〃125 〃

〃141 〃

(4) 脱税行為は本人の利得がある為にするのが常識だが被告人田中隆博に一銭の利得もなかった。

(イ) 判決八二頁(ヘ)

田中個人呉服品購入代二万円、支出月日(昭、二六、一〇、二七日)とあるが、田中隆博は当然飯塚に常駐し且居住していて、伊田の島津呉服店など知らず、田中隆博個人の全然関知する所ではなく裁判官の云う、社長田中隆博の家族の生計費と云うが、事実誤認である。(公判調書(昭、三四、五、一九日)田中房子の証言問答〈22〉〈23〉〈24〉〈25〉〈26〉で被告人田中隆博個人に何等関係ない事が明らかであります。第二陳述書(其の二)(昭、三五、六、二二日)質問てん末書(昭、二八、六、二日)田中房子問答〈4〉〈6〉にて明らかである。

(ロ) 判決八二頁(ヌ)

子供の学校の入学式金三万円、支出月日(昭、二七、一、二四日)とあるが此も丸吉の関係で被告人田中隆博個人と何等関係なく、被告人田中隆博の子供でもない。田中隆博個人が関知する何ものもない。

○ 第二陳述書(其の二)(昭、三五、六、二二日)でも被告人田中隆博個人と何等関係なき事が明らかであります。

○ 公判調書(昭、三四、五、一九日)田中房子証言に依って明らかである。

問答〈39〉〈40〉〈41〉でも判明する通り被告人田中隆博の何等関知せざる所であり、事実誤認であります。そう査当時、被告人田中隆博個人の使用の如くに云はれていたので、あえて事実誤認の答辨をした次第です。

(ハ) 判決八二頁(ル)

社長宅火鉢代三、五〇〇円(支出昭、二七、一、二九日)とあるも、丸吉には被告人田中隆博の自宅はないのです。且丸吉炭坑の支出であり、被告人田中隆博個人の何等関知せざる所であり、公判調書(昭、三四、五、一九日)田中房子証言。問答〈42〉に依り明らかであり被告人田中隆博個人とは全く関係なく然も会社の方から来客用の為に届けてくれたと云っているのです。その点からも被告人田中隆博個人とは何等関係のない事が判明致します。此の点事実誤認で御座います。

(5) 質問てん末書(昭、二八、六、二日)田中房子

(イ) 問答(4) 島津呉服店の領収書に田中房子押印、問答(6)上記(4)は丸吉炭坑の収支伝票綴である。問答(7)会計に不正が起らない為捺印している。

当時丸吉の会計、金銭交際的行為は被告人の権限外であった。故にこの様な事には口出しは出来なかった。即ち田中彰治直属であり且被告人田中隆博は、丸吉炭坑関係の交際、銀行、渉外等には一切関係してなかった。其の関係は田中彰治直属で田中房子が担当していたもので上記三件に関しても、当時の担当者田中房子が交際等に使用したものの如くである。

(ロ) 次に飯塚の振興炭坑であるが此処も田中彰治の直属の金銭出納責任者林すゞが居り金銭の出納一切の権限を持っていた。以上の如くにして上記三件の判決は事実を誤認して居り、被告人隆博は安月給のみにて生活した機械器具の如く使い走りで動いたに過ぎない生活であった。

(ハ) 依って会社の金を家族の生活費等に一銭でも使うものなら、大変な事で、すぐ張り飛ばされ「かんどう」される状態で一銭たり共使い込等出来ない仕組になっていたのです。

田中彰治は女には甘いが成人した子供には厳しく、特に私には克人の如き厳しさを持っていました。

(6) 経理担当者の技術未熟と国税局の態度について。

(イ) 被告人田中隆博最終陳述(昭、四二、一、二七日)(17)項41頁より43頁迄記載の通り経理担当者が経理技術が未熟であった為も加えて完全な経理処理が出来なかった為、裁判官から色々悪い情状で指摘されている所であります。経理処理が完全に出来て居れば本件は起きなかったと信じます。

(7) 国税局の指示に従い国税局から告発を受けた。

(イ) 此れは善意な第三者が聞いて、はたして納得が行くでしょうか。

(ロ) 国税局の指示に従った事が脱税犯となり、国税局からだまされる等は誠に奇々怪々な話であります。

(ハ) 尚一、五〇〇万円から納税しているものを一円だに納税していない、等と「うそ吹けるものでしょうか。」しかも公式な然も神聖なる場所で。昔の悪代官は受取(領収書)等なくすると、又取をしたそうですが、現代の世代に上記の如き事があったと云っても善意な第三者は本気にするでしょうか。

(ニ) 公判調書(昭、三四、五、一八日)三浦伊佐美〈79〉国税局にだまされた。

(8) 判決七頁(4)項について

(イ) 「被告会社は免税の申請手続をしないのみか、会社の経理に於ても、課税、免税の区別を截然とせず、会計帖簿上は振興及び丸吉両鉱業所毎に課税坑分も一体として記帖されているので」云々とあり上記文面では悪意を以って、課税坑、免税坑を一体記帖の様に聞こえますが、此の点は事実を誤認していると思料致しました。

(ロ) 前記(一)より(六)迄申上げた如く、国税局の指示に依り課税坑と免税坑の区分記帖の必要がなかった事。

(ハ) 振興炭坑の福採登一六九八号礦区が免税に決定したのは、査察後帖簿を引上げられて後に決定したので帖簿の区分記帖の方法がなかった事。

(ニ) 丸吉二坑が免税坑に決定したのも国税局が告発後に於て決定した為勿論帖簿は押収された後であるから、記帖区分の方法がなかった事で、故意悪質行為で区分記帖しなかったのではないので判決の主旨が実状と食い違いがあります。

(9) 被告人田中隆博個人に脱税等と云う意志はなかった。

(イ) (1)の如く実権者が居り被告人田中隆博の意志等毛頭通らなかった事。

(ロ) 完全なる機械器具の如く指示通り動かざるを得なかった事。

(ハ) 税金の件は国税局の指示を迎いだ事。

(ニ) 国税局員からは「新設免税の手続も面倒だから税金で免税の様に考慮する」と云われたが、被告人田中隆博は田中彰治の指示に依り会計課員に免税手続を指示していた。

(ホ) 且国税局にも新設免税である点を口頭にて申告もした。

(ヘ) 被告人田中隆博個人は一銭の利得もなかった。

(ト) むくいられたものは一五年間の被告人という汚名と精神的経済的苦じゅうであった。

(チ) 被告人田中隆博個人に関係なきものが田中彰治、田中房子の関係と誤解されて罪状が重くなっている。

(リ) 尚経理技術の未熟等も加えて完全なる経理処理が出来ず本件を面倒にしている。

(ヌ) 国税局及検察官のずさんな資料に基いた事が判決に誤認を生じている。

(ル) 被告人田中隆博個人は被告人会社の所得を自らの主導的立場で過少に申告する事が出来ない立場にある点を充分御理解の上御審理を賜り度い。

(ヲ) 以上の如く被告人田中隆博個人に法人税逋脱の意志はなかった。

(二) 課税所得と免税所得との出炭屯数按分の計算は事実誤認並に明らかなる法令違反である

(イ) 課税坑と免税坑では一屯を採掘する原価が相当の開きがある。其の開きのあるものを出炭屯数で按分することは事実より相当かけ離れたものが出来上るので、税法の通り厳に区分計算すべきであります。

(ロ) 当初本件を調査した寺下検事、山本検事、徳永辨護人、名川辨護人、被告田中隆博国税局員三名計八名が昭、三五、一一、四日福岡地方検察庁で会合し課税所得と免税所得の計算は出炭屯数のみで按分計算する事の非を認め、且何人からも異議はなかったので有ります。

上記両所得の計算は区分計算すべきであるとの話合が相方了承の上会議を終了したのです。依って名川口上書が名川辨護人に依って出来上った次第で有ります。本件について実際に証人等も呼んで調査して本件の事情に一番精通している寺下検事殿が出炭屯数に依る按分の非を認めている以上色々調査の課程に於て辨護人の主張に真実がある事を認めたからこそ起訴以来七年目に辨護人の主張を認めて居るのであって寺下検事殿も本件を手掛け他に転勤されて本件の調査課程を回顧し辨護人の長期に渉る主張に対し寺下検事の真実を打合せ会で認めたものと解し、実に尊い告白であると確信して止みません。

それなのに、今回其の長期に渉る非を精算されたかの如く見えた、神聖なる打合せの主旨を打ちやぶり又元の検察官の暴走時代の出炭屯数按分を以って唯一の防ぎょ手段とする事は神聖なる法を司る人達八人の人と打合せ合意となった事項を勝手に破棄して独走された判決には辨護人並に被告人は納得の出来ない所であります。

(ハ) 一例を示すと辨護人提出の第二事実具申書(昭、三五、七、二八日)

丸吉炭坑の所得は

一坑課税坑 一〇六九万七三七三、七〇

二坑免税坑 三二三万五八四〇、六八

ではなく

一坑課税坑 三二五万四七五五円

二坑免税坑 一〇七六万八四六〇円

となる。

斯の如く区分計算の真実と按分は大きな違いがあるのです。此れ程の違いを顧みず真実を究明する事なく本件の解決は出来ないと辨護人は一一年間主張し続けているのです。此処に寺下検事殿が気付かれて調査以来七年間の壁をやぶって屯数のみに依る按分の非を認められた根遽があると信じます。

(ニ) 以上を以って判決を構成する課税所得と免税所得を出炭屯数のみに依る按分計算の非が認められたと存じますので辨護人主張の区分計算方式の採用を望んで止みません。

(ホ) ○ 第二事実具申書 (昭、三五、七、二八日)

○ 第三事実具申書 (昭、三五、一一、二六日)

○ 第一二回陳述書 (昭、三七、五、二八日)

○ 第一五回陳述書 (昭、三七、九、二〇日)

○ 第一六回陳述書 (昭、三八、二、一日)

○ 第一七回陳述書 (昭、三八、六、二七日)

○ 認否陳述書 (昭、三九、五、一八日)

○ 陳述書(昭、四〇、九、一日)名川辨護人

○ 第一八回陳述書(昭、四一、一〇、七日)徳永辨護人

○ 第二〇回陳述書(昭、四一、一〇、七日) 〃

○ 第一回辨論要旨(昭、三九、一二、八日)徳永辨護人

○ 第一回 〃 (昭、三九、一二、八日)名川辨護人

○ 第二回 〃 (昭、四二、一、二七日) 〃

○ 第二回 〃 (昭、四二、一、二七日)徳永辨護人

○ 第四一回公判 (昭、三九、一一、一七日)田中隆博

○ 区分計算 36373839

○ 〃石炭原価区分計算 40~54迄

以上は主なもので一一年間には此の外にあらゆる角度、機会に於て課税所得と免税所得の計算は出炭屯数按分は非である主張をしているので其の数も主旨も本件の根本であるので最も多く陳述なされている。

(三) 歩留と原価について事実誤認である

(イ) 炭礦から歩留を除けば成り立たない。

(ロ) 炭礦は歩留の良い石炭程もうかり歩留の悪い石炭程欠損する事は明らかであります。

(ハ) 本件もこの歩留を考えずには解決は出来ない。

(ニ) 判決は出炭屯数を「検炭野取の段階で捕促した」と云っている所に事実誤認が出来ている。

(ホ) 検炭野取の段階は二五㎜以上の荒硬を取るのが検炭の段階である。其の硬引後の正味函数を水洗して出来るのが出炭屯数であり、販売屯数となる。

此の水洗及硬引の課程に於てどれだけ正味函数の中から石炭が残るかの割合が歩留率であり、此の歩留率は各炭層毎に一定している。

(ヘ) 此の際良質の石炭は多く残り粗悪炭は殆んど流出して少量より残らない。

(ト) 本件丸吉一坑の課税坑の石炭並に振興一三四号の(課税坑と称する)石炭は免税坑丸吉二坑及振興椿坑に比し相当に粗悪炭であるので石炭として残る量が少い。

(チ) 石炭の歩留率と云うのは検炭野取の段階でなく、検炭後の正味函数の段階から始めるのであるから本判決は根本から相違し事実誤認であり本件解決とはならない。

(リ) 何故ならば歩留率をかけ合せるのは「正味函数×歩留率=屯数である」からであり、本判決は「検炭野取の段階で捕捉した」と言うと正味函数以前であるから大きな誤りであり、根本が違う事であります。

(ヌ) 一函の中の石炭と硬の混入を他の例をもって(歩留及原価について)此を金鉱に取ると致します。

(免税坑)

(A) 一〇〇%の含有率とすると一函の積載量を一屯とすると製品一屯となり

(課税坑)

(B) 一〇%の含有率とすると一函当り一〇分の一の〇、一屯となる。

即ち(A)の時は一函で一屯の出炭となり(金鉱)

(B)の時は一〇函で一屯より出来ない。

(ル) (A)を免税坑(B)を課税坑とすると(A)(B)を水洗機(製練機)にかけると一、一屯の製品となる。(二函分)

(ヲ) 此の一、一屯は二函の中から出たので

一函当の平均歩留は1.1屯÷2函=0.55となる。(此れが本件の平均歩留〇、四二に該当する)

免税坑(A)は 1屯-0.55屯=-0.45屯 の誤差が出来

課税坑(B)は 0.1屯-0.55屯=+0.45屯 の誤差が出る。

即ちAは一屯実際あるものが〇、五五屯より換算されず

Bは〇、一屯よりないのに〇、五五屯もあることになる。

検察官並に判決に依る〇、四二の平均歩留が如何に真実と相違するかが此れで明らかに判明する。

即ちこの誤差が被告人の量刑不当となっている訳です。

(ワ) 故に生産原価は課税坑は免税坑の一〇倍となり、免税坑は課税坑の一〇分の一となる事が立証される。

(カ) 以上の如く判決九頁末尾の「最も合理的で妥当」とは、どう考えても出て来ない言句となります。

(ヨ) 故に税法にも免税坑と課税坑とに厳に区分計算すべきである事が規定されているのは当然であります。

(タ) 按分は真実を誤らせ刑事事件には以上の如き推計は許されない。

且税法には課税所得と免税所得を区分計算する規定はあるが按分する規定はどこにもないので按分計算は違法であります。

(レ) ○ 第一四回陳述書 (昭、三七、七、二八日)

○ 第一五回陳述書 (昭、三七、九、二〇日)

○ 認否陳述書 (昭、三九、五、一八日)

○ 第一八回陳述書 (昭、四一、一〇、七日)

○ 第二〇回 〃 〃

○ 第四一回公判調書 (昭、三九、一一、一七日)田中隆博 一四から二一迄、二四から三一迄三四から三六迄

○ 石炭原価 四〇~五四迄。

○ 第一回辨論要旨 (昭、三九、一二、八日)徳永辨護人

○ 第一回 〃 (昭、三九、一二、八日)名川辨護人

○ 第二回 〃 (昭、四二、一、二七日)徳永辨護人

其の他陳述具申書に歩留計算にて行なわれている。

(四) 混炭四三九七屯(判決)は免税であり此の石炭を按分配分する事は二重の事実誤認である

(イ) 丸吉坑の石炭は出炭屯数よりも販売屯数が四三九七屯(判決)も多く出炭屯数と販売屯数は食い違っている事は刑事犯に於ては由々しき問題であります。

然も此の四三九七屯(判決)は(辨護人側の数量はまだ多い。)免税坑の丸吉二坑の石炭であります。

丸吉二坑の四尺炭に硬を混炭して作った石炭でありますから当然免税である事は明らかで有ります。

(ロ) 処がこの膨大な四三九七屯(判決)を究明する事なく、検察官のずさんな資料に基づき判定し、此の膨大なる数量を課税坑、免税坑に按分している事は二重の誤認と云わねばならない。

(ハ) 免税坑、課税坑の所得を出炭屯数で按分するのさえ辨護人は起訴以来一一年間も争い且主張して来たので有ります。然るにこの膨大なる屯数が食い違うからと云って各坑の出炭屯数に按分配分された事は全く驚く次第です。

此れは全く事実を誤認した顕著な事実であって何人も納得出来ない処であると信じます。

(ニ) 混炭は当時七〇〇〇カロリーから七四〇〇カロリーある丸吉二坑の四尺炭と硬を混入して初めて五〇〇〇カロリーの混炭が出来たのであり、他の丸吉一坑の石炭では全然出来なかったので有ります。

又其の設備もなかったのです。

(ホ) 例えて云えば二坑の四尺炭が硬と云う嫁を貰って混炭と云う子供が出来た。此の子供とは親子であって他人ではないので混炭と云う子供は当然家族としての優遇(免税と云う)を受ける事は必然である事が判明致します。

(ヘ) それなのに判決は混炭を家族扱いせず、即ち二坑の免税坑扱いをせぬ事は誤りであり、違法であります。依って該件は事実を誤認したものであります。

(ト) 判決の数字を引用しても 4397屯×4800円=2010万5600円

(混炭々価)

となり申告税額を加えると本件の逋脱税額は皆無となります。

(チ) 本件に関しては納税者の利益の為にも諸状勢にこだわらず混炭の免税措置を御願する次第です。

(リ) ○ 第一一回陳述書 (昭、三七、五、二六日)

一〇丁(5)丸吉炭坑の低品位炭五〇〇〇カロリー販売明細。

○ 第一四回陳述書 (昭、三七、七、二八日)

水洗硬混炭四二四二屯、八頁、一二頁等。

○ 第一五回陳述書 (昭、三七、九、二〇日)

混炭について

○ 第一六回陳述書 (昭、三八、二、一日)

混炭について。

○ 第一七回陳述書 (昭、三八、六、二七日)

三井鉱山本社地質部調査丸吉二坑と同炭層分析表中平均七二七二カロリー最高七四八四カロリー

○ 上申書 (昭、三九、四、一六日)

四四七〇屯の過剰石炭は混炭である。

○ 第四一回公判 (昭、三九、一一、一七日)田中隆博

61から65迄

○ 第一回辨論要旨 (昭、三九、一二、八日)徳永辨護人

(二)丸吉炭坑混炭四、〇二三屯の収入を含む。

(五) 本社業務の実態の事実誤認

(イ) 本社業務の実態については第二回辨論要旨(昭、四二、一、二七日)名川辨護人八三丁裏-八八丁裏に依っても明らかであります。

(ロ) 尚被告人田中隆博最終陳述書(昭、四二、一、二七日)に依っても本社業務並に実態は判明するものと思考されます。判決五頁二に於て「会社経理の主体も右二ケ所であって」販売会社ではなく生産会社である以上経理は右二ケ所で行われるのは当然の事であります。

(ハ) 尚「会社帖簿の総体は両鉱所に於て整備され」とあるが事業所である以上日本全国どこの会社に於ても各事業所毎に帖簿は整備されるのが普通であり、其の総元締を本社でやるのです。

戦領下の日本に於ては当然本社でなければ出来ない事が多く残されていた。

(ニ) 要するに本社業務並に実態を誤認されない限り本社費並に本社経費を五四一万四三四六円を否認しない筈であり本社業務の実態からして上記否認額は全額認容さるべきであります。

(六) 礦害賠償金の否認は事実誤認である

(イ) 振興炭坑分として石炭鉱業合理化事業団で支払った金額二〇〇八万一四三八円である。

(ロ) 丸吉炭坑分は七三一万二三六〇円となって居ります。所が丸吉炭礦の事業団買上代金が勤少の為必然礦害賠償金も少く被害者と接渉して一応買上完了迄はどうやら片附けましたものゝ実際の被害は予想を上まわり現在石炭合理化事業団の礦害課で調査した処に依ると、丸吉炭坑の礦害は一億数千万円に登ると云われ、其の対策をしている処であります。

(ハ) 現在迄に事業団から当方売却分から支払われた金額は二七三九万三七九八円で昭和二十六年度として三〇%と見て約八二〇万円を昭和二六年度分の礦害賠償金として認容方をお願いしたが事実は一億数千万円で、一億円と見ても振興六〇〇万円、丸吉の三〇%を昭和二六年度の礦害と見ても三〇〇〇万円、合計三六〇〇万円となります。

(ニ) 昭和二六年は一番出炭量の多く採堀した年なので三〇%は多少少な過ぎるきらいは有りますが少なくも最初決審時でも八二〇万円です。

現在の時点から行くと少なくとも三六〇〇万円の昭和二六年度の礦害賠償金を損金として認容して貰わなければなりません。

(ホ) 上記については徳永辨護人より石炭礦業合理化事業団の証明提出済、被告人田中隆博最終陳述(15)35頁より36頁に記載。証明一部後日提出

(七) 東京本社費並に東京本社経費の事実誤認

(イ) 東京本社経費 一四二八万三一一五円

判決 〃 一二七五万八〇二一円

右差額 一五二万五〇九四円は本社経費として認容さるべきであり当時は、交際費無制限時代であり、それ以上の費用が使途された事は事実であります。故に差額一五二万五〇九四円は経費として認容願い度き事。

(ロ) 尚本社費八八一万一〇八〇円は当時福岡国税局に於て他の経費等否認した際東京本社費を八八一万一〇八〇円を認容する事が決定されすでに一五年間の歳月が経過した今日四九二万一八二八円より認容せず差額三八八万二五二円を否認すると云う事は事実誤認であり、且違法であります。然も起訴以来一一年間も両者異議なく成立していたものであります。

(ハ) 即ち本社経費並に本社費否認額合計五四一万四三四六円は認容さるべきであると思料致します。

(ニ) 第二回辨論要旨(昭、四二、一、二七日)

名川辨護人83丁裏より87丁裏迄。

(ホ) 被告人田中隆博最終陳述(昭、四二、一、二七日)(5)20頁より26頁迄。

(八) 固定資産償却費の事実誤認

(イ) 実際の経済的採掘可能炭量並に礦山命数にて計算し固定資産の償却不足額は一一三九万二七三四円でありますので該金額認容願い度き事。

(ロ) 裁判官は施業案の炭量を取って計算している様ですが施業案は字の通りあくまで案であって炭礦としましては此の案を通す為ある程度炭量、カロリー採掘条件等は予想をもって「優秀な炭礦だからすぐ許可をせよ」と云う形が施業案の特質であり、実際に採掘をして見なければ大臣と云え共不明の事である事はおわかりになると思います。

其の云わば作文を見て実質炭量、カロリーだと断定する事は特に地下の事であるだけに事実とは相当にかけ離れる事は誰が見ても聞いても明らかにわかる事であります。

従って事実具申書(昭、三四、一〇、三一日)と比較すると相当の開きが出来るのです。故に事実具申書の(5)実際の経済的採掘可能炭量並に礦山の命数にて計算した固定資産の償却額明細表が真実でありますので償却不足額一一三九万二七三四円を認容さるべきであると思料致します。

(九) 租礦区料償却の事実誤認

福採登第一三四号の租礦区料は辨護人陳述書の通り償却不足であり、認容願い度き事。償却不足額一七二万八七三三円であります。第三回事実具申書(昭三五、一一、二六日)二五丁裏(8)

第三回事実具申書(昭、三五、一一、二六日)二五丁表(8)

第一二回陳述書(昭三七、五、二八日)三丁表(ハ)

第一三回陳述書(昭、三七、七、二四日)三丁裏

(十) 退職引当金否認は事実誤認

(イ) 判決二八頁退職給与引当金五七万四五六〇円の不当計上は事実誤認である。本件は現在を昭和二六年度の年として実際に引当金があれば引当させるべきで、本件も手続の不備経理技術がない為等々で本件が起きたのであるから、昭和二六年度が現在だという見方で当時の実際を裁判しているのが本件でありますれば手続が不備だから認容出来ないと云う事は当らないと存じます。

(ロ) 即ち手続等は不備な点もあるが実際はどうなのか真実究明が本件であると信じます。故に上記五七万四五六〇円の不当計上は経費として認容さるべきであります。

(十一) 四〇〇万円否認は事実誤認

(イ) 第一回検察官供述調書赤城潔(昭、三〇、四、二九日)被告人田中隆博の最終陳述(昭、四二、一、二七日)標記の四〇〇万円は退職給与引当金礦害補償引当金で前期否認された分で、当然昭和二六年度に於て認容さるべきものであります。

(ロ) 赤城潔の経理技術が未熟の為に、本人は調査の時話せば認容してくれるものと確信していた。国税局は除算欄に記入しなかったので知らなかった。故に認容は出来なかった訳です。

(ハ) 然し現実から行くと、本件がなかったら、国税局が例年の様に調査に来て赤城の云う前年度分は当然認容するのですが、本件が起きた為除算欄一本で行かれるという形で実際は認められるべきものである事は確実だったわけです。斯の如き次第で上記四〇〇万円は認容願い度き事。

(十二) 木材代の事実誤認

山林自体が田中彰治個人のものであり、木材代一二三万四九九一円は経費として認容願い度き事。判決では表面に出ていないが内容としては認容されていない。該件は山林の謄本も証拠として提出済である。

第三回準備手続調書 (昭、三四、四、八日) 六頁七行~一三行迄

第一三回辨護人陳述書 (昭、三七、七、二四日)

(十三) 北九州石炭配当金否認は事実誤認である。

北九州石炭(株)の配当金一万五〇〇〇円は田中彰治個人のものであり、営業外収入とはならない。

第二回準備(昭、三四、二、一七日)三頁中判決二四頁

(十四) 山吉炭礦の貸倒金否認は事実誤認であります。

(イ) 山吉炭礦の貸付金が貸倒となった三八八三万九五七三円は損金として認容さるべきであります。

(ロ) 山吉炭礦は昭和二六年一〇月末頃予定しなかった落込断層に逢着し石炭の採掘は此れ以上進む事が断念され稼行不能と相成った訳です。即ち損金の回収は勿論の事、稼行価値が認められなくなったのです。

(ハ) 出炭が其の後あるのは深部前進が出来ないので終了する為坑口の方に坑道をつぶして其の周辺を採掘して昇って来た為であり事実上昭和二六年度に於て回収不能が決定された訳です。

故に山吉炭坑貸倒損金三八八三万九五七三円を損金として認容さるべきであります。事実具申書(昭、三四、一〇、三一日)中貸倒金に依る損金等について立証、被告人田中隆博最終陳述書(昭、四二、一、二七日)(10)三〇頁記載。

(十五) 納税について事実誤認

(イ) 従来裁判の御審理には検察官と国税局員が一身同体となって同道して準備に法廷に、一一年間を経て昭和四一、一〇、七日の検察官の論告要旨三四頁中程「現在に至るもまだ此の逋脱された税額のみならず、申告した税額すらも一円だに納付していない。」

(ロ) 「唖然とする事には前年度の法人税まで未だに、全額納付していないのである。」尚同最終三八頁に於ても「被告人田中の為した行為の悪質さ及同人に犯行後反省の気色の一片だに見受けられない」との論告に徴し、当方は納付した筈と思い乍らも本家本元の福岡国税局と検察官が云うのだから全く調べ様が無く、大蔵大臣宛調査依頼をした所、実に驚いた事には約一一七〇万円が納税されていた事です。

(ハ) 一円だに納入して居ないと検事論告に於て一個の人権等無視するが如く非ぼう絶句の限りを尽された結果昭和四二年一月二三日上記返事となって判明したものであります。

其の後再度大蔵大臣宛納税調査依頼を申し入れた処上記金額の外に昭和二六年度申告分全額約四〇二万が納付されている事が判明致しました。(千円以下省略)

(ニ) 即ち一円も納めていないと主張した税金が約一五七二万円もの大金が納付済であったのです。次に丸吉炭坑の社宅が国税局の公売に依り其の公売代金も納税されているので同大臣宛調査依頼したが未だに納付されたのか否やも判明されない。

(ホ) 尚被告人田中隆博は昭和二七年度の中間申告分の納税をした記憶に基づき、中間納税について問い合せたが不明で二五年度の再更生以前の税金ではないか等と、とぼけていて話にならず其の諸帖簿は廃棄処分となっていると云われ本事件は判決にも二五年度の税問題もからんで続行している時関係書類はないという状態では正当なる防衛は出来ない。又国民の一員として全く腹が立つというのを通り越して情ない気持で一杯です。

(ヘ) 「尚唖然とする事には(検、論告、三四頁)前年度の法人税まで、いまだに全額納付していない」と実に悪質で納税には誠意がなくて、はしにも棒にもかからぬ様に聞えますが昭和二七年三月二〇日第一回更生決定に係る本税二八二万一一〇〇円

加算税 一四万一〇五〇円

合計約二九六万円の全額が完納終了しているのです。

(ト) 其の後、昭、三〇、七、二日に再更生が行はれたが、其の時、すでに両礦業所は査察等の社会信用の失つい等も加えて採掘は中止されて税金を支払う能力がない儘今日に至り且裁判となり今日に至った次第で悪意に依り再更生を納付しなかったのではなく再更生の書類等被告人の手許についていないのです。

(チ) 以上を以って計算しても一円も払わない税金が二五年度も入れると一八六八万円が納付されている事が判明致します。

其の外に昭和二七年度の中間納税を飯塚税務署に支払った記憶が確かにあるのです。それは石炭鉱業合理化事業団より支払われた物以外です。そうすると事業団の支払ったのとダブル事にもなるのですが現状では不明です。

(リ) 然も国税局は取り腰ばかり強く昭和二五年度を再更生までして徴収強化を計っていますが、取り立てのみで二五年度の免税措置が取られていない等一方的徴収手段で納税者の利益等考えず、且公平な徴収を行はない事は公務員の違法行為であると思料されます。

(ヌ) 尚石炭鉱業合理化事業団より納付された税金は法律に違反して利子税や加算税に勝手に納入せしめる等しているのです。

以上の様に国家機関である国税局同検察官が公的に責任を以て社会に発表する以上充分調査して発表する筈であるが此の度の論告は無調査の儘検察官、国税局の思いつきで発表したとすれば社会的大問題であると存じます。又調査して後発表されたものとすれば本家本元の国税局と一身同体で行っている調査資料は如何にずさんな資料に基づいてなされたかが窺われる次第です。

(ル) 又六八五万五六六〇円の逋脱があるとしてロボット社長が五〇〇万円の罰金と六ケ月の懲役二年間の執行猶予を科せられている時逋脱額の約二、三倍もの一五七二万円と云う大金が納付されているのか、いないのか、もわからない。此の様な国税局同検察官の合同的論告のずさん極まる証拠の上に立脚して、其の資料を過信して、其の真相を充分調査する事なく、本判決がなされた事は誠に遺感であり、事実の審理を行なわなかったものと思考されます。尚証明書添付申上げます。

(オ) 第二回弁論要旨(昭、四二、一、二七日)名川辨護人

五一丁表より五二丁裏迄。

○ 被告人田中隆博最終陳述(昭、四二、一、二七日)(12)三一頁より三二頁迄。

○ 判決五七頁

○ 証明書添附

(十六) 本件は重大なる法令違反並に理由の食い違並に膨大なる金額にのぼる事実誤認がある

〈1〉 課税坑と免税坑の按分を止め、区分計算すると一〇〇〇万円前後の赤字が出る事。

〈2〉 出炭量と販売数量の食い違屯数四三九七屯(判決)の丸吉二坑混炭(免税分)を認容すると課税所得はなくなる事。(右に申告税を加える)

〈3〉 歩留率を正確に真実の姿にして計算しても一〇〇〇万円前後の赤字となる事。

〈4〉 納税は昭和二六年以降一円だに納付しないと被告人の情状悪化を主張され大蔵大臣の調査報告では、一一七〇万円も納税の事実誤認が証明された事。

〈5〉 尚昭和二六年度申告納税分も未納だとの主張で調査大蔵大臣の報告に依ると該件は完納(四〇二万円)されている事。

〈6〉 唖然とする事には二五年度も完納せずと調査すると第一次更生分は完納(二九六万円)されている事。

再更生分は炭礦閉鎖後で納税出来なかった事。

即ち一円も納税なき分が昭和二六年度以降だけで約一五〇〇万円納税があった事。

二五年度分を入ると約一八〇〇万円と云う膨大な数額が納付されていて其れが未納だという事実調査が不完全な事。

〈7〉 礦害賠償金其の他の否認数額

礦害賠償事実支払額 30% 820万円(実質3600万円)

北九(株)配当金 1万5000円

退職金否認 57万4560円

前期否認分 400万円

固定資産償却費 1139万2734円

租礦区償却不足 172万8733円

木材代 123万4991円

本社費及本社経費否認+541万4346円

計3256万0364円

となり、此の数額でも課税所得がなくなる事。

〈8〉 山吉炭坑の貸倒損金を認容すると此の数額だけで課税所得がなくなる事。三八八三万九五七三円であります。

以上の如く真実な辨護人の主張と判決の差が余りにも膨大な開きがあり過ぎる事であります。

第一回辨論要旨 (昭、三九、一二、八日) 名川保男辨護人

第一回 〃 ( 〃 ) 徳永竹夫 〃

第二回 〃 (昭、四二、一、二七日) 名川保男辨護人

第二回 〃 ( 〃 ) 徳永竹夫 〃

被告人田中隆博最終陳述(昭、四二、一、二七日)外各具申書、陳述書中。

(十七) 本件で一円だに納税していないと云われた分が又納税している事が判明した事実誤認

前述した様に「一円だに納税しない」云々と云われ又其の資料に基づいての判決が納税という情状悪化の基因の一端となっていますが昭、四二、六、三日入手の大蔵大臣宛照会の証明に依ると福岡県田川郡香春町所在の丸吉炭坑炭住公売価額一五〇万二四〇〇円が一円だに納税しないと云われたのか納付されている事が判明致しました。即ち一一七〇万円の石炭鉱業合理化分、昭和二六年度申告分四〇二万円合計約一七二二万円となり昭和二五年度分第一次更生分を入ると二〇四六万円の納税となります。此の一一年の間に然も二六年度以降六回に渉り二八年度も入ると七回以上に渉る膨大な納税額について、隠蔽され情状悪化の資料にされた国税局並に検察官の心情は解し難く、法を司る者のすべき行為ではないと思考されます。それが故意でないとするなら人間一人の一生を破懐するか立上らせるかの重大なる問題に対し余りに本件を軽視し、若し軽視せざればいかにずさんな資料に依り御審理を賜ったかが窺われ、此の資料に立脚した判決は事実誤認であると思料致します。

被告人田中隆博が主張している昭和二七年度の中間申告税が此の外に納付されたと信じますが此については尚調査致し後日御報告申上度く存じます。尚証拠書類は添付致します。

以上

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